29-4.打ち捨てられし記憶


「もう。帰りが遅いから、川島さんと探しに来たのよ」


「す、すみません」


 穴から抜け出したおれたちは、姫乃さんと川島さんに合流した。


「あれ。ガーゴイルは?」


 川島さんが、くいっと指を向ける。


「……あれか?」


 見ると、すでにぼろぼろに破壊されていた。


「…………」


 おれはそれを呆気に取られていた。


 ……まったく腕は衰えていない。

 さすが居酒屋の食材集めに毎日、潜っているだけはある。


「ありがとうございます。おかげで助かりました」


 すると川島さんが穴を見下ろした。


「まったく、勝手にこんな仕掛けなんぞ用意しやがって」


 陽子さんはつーんとそっぽを向く。


「わたしの稼いだ賞金をどこに隠していようがいいでしょ」


「そういう意味じゃない! もし客がこれに落ちていたら……」


 おれは慌てて二人の間に割って入った。


「まあまあ。とにかく、この宝箱を確認しましょう」


 川島さんはため息をつくと、ガーゴイルの額にあった宝石を取り出した。

 それを受け取って、宝箱の鍵穴にはめ込む。


 ――カチッ


 軽快な音とともに、蓋が開いた。


 そして中に納まっていたものは――。


「……なんですか、これ?」


 それは見たこともないガラクタやらなにやらが詰め込まれていた。


「あらー。そういえば、ここに置いてあったのねえ」


「は?」


 そのひとつを手に取ると、にこにこ笑いながら見せてくる。


「ほら、これー。可愛いでしょー」


「……じゃなくて、これは?」


「わたしのコレクションよ?」


「…………」


 つまりこれが、打ち捨てられし記憶に~ってやつか?


「つまり、現役のころの取得物をしまってあったと?」


「そういうことになるかしら」


「いや、待ってください。おれたち、ここに宝があるって……」


「だから宝物じゃない?」


「…………」


 う、うーん。


「じゃあ、おまえの借金はどうするんだ!?」


 川島さんが吠えた。

 うん、そりゃそうなるよね。


「もう、せっかちさんねえ。もちろん賞金も他のところに隠してあるわ」


「え。他のところ?」


「もう通ってきた場所よ。これを見て思い出したのー」


「じゃあ、どこに?」


 すると彼女は、にこりと微笑んだ。


「こっちよー」


 そう言って、彼女はもとの道を引き返していった。


「…………」


「…………」


 おれたちは互いに顔を見合わせると、慌ててそのあとを追っていった。


 階段を上って、第二層のフロアへ。

 そしてたどり着いたのは……。


『ヨシヒコ/マイコ』の相合傘の刻まれた場所だった。


 どうして、ここに?


 陽子さんがにこにこ笑いながら、その相合傘の上のほうを指さした。


 そこにはまるで、ハート形のくぼみのようなものが……。


「ま、まさかここが?」


「そうなのー。ね、あなた?」


 え?


 彼女の視線を追って振り返った。


 ……川島さんが、顔を真っ青にして口元を引くつかせていた。

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