13-2.ダンジョンの食事事情


「さあて、できましたよー」


 おれは食事のひとつを主任に差し出した。


「…………」


 主任はそれを受け取ると、じっと見つめる。


 カップ麺が二つ。


 おれがしょうゆ味で、主任がしお味。


 割り箸を二つにして、おれは手を合わせた。


「いただきまーす」


 ずるずる。

 あー、うまい。


 お湯を入れて三分でこれとか、人類すげえな。


「あれ。主任、食わないんですか?」


 彼女はふるふる震えながら、ビシッと指をさしてきた。


「雰囲気!」


「え。なにが?」


「もっとこう、あるでしょ!」


「だからなにが?」


 今日もこのひとが言ってること、意味がわからないな。


「ダンジョンでの食事っていったら、こう、サバイバル感でしょ!」


「あー……」


 なるほど。


「つまりキャンプしたいと?」


「ち、違……うんだけど、違わないというか……」


 声に自信がなくなっていく。


「でも、しょうがないじゃないですか。未開拓ダンジョンならまだしも、こんな攻略され尽くしたダンジョンですよ?」


「そ、それでも!」


「ていうか、ここで活動するひと、みんなコンビニ飯ですけどね」


「それよ! どうしてみんなそんな風情がないのよ!」


「まあ、この近くコンビニ四軒ありますからねえ」


 そのうち二軒は同じ系列だ。

 あんな鼻先に同じ店をつくって、採算が取れるのだろうか。


「しかしまた、どうしてそんなことを?」


「ハントした食材で試行錯誤しながらわいわいご飯するのが楽しいってネットに書いてあったもの」


「まあ、そんなひとたちもいますけどねえ」


 でもそれは食道楽が目当てのハンターたちだ。


 ハント目的からすれば、結局、最後には利便さが優先されちゃうんだよな。

 ちゃんと片付けしないと出禁になるし、慣れないうちは調理場所を確保するのも大変だ。

 その点、コンビニ飯ならゴミを持ち帰るだけで済む。


「で、でもでも……」


 うーん。

 まあ、ロマン優先の主任には大事なことなんだろうな。

 おれも駆け出しのころは同じこと考えてたような気がするし。


「じゃあ、食います?」


「え?」


 おれは麻袋をごそごそやると、主任の言うところの『ハントした食材』を掴みだした。


「うまいですよ、レッサー・バット」


「ひっ!?」


 主任の顔が凍りつく。


「そ、そそ、それじゃなくて……」


「ものは試しですよ。案外、主任も好きな味なんじゃないかな」


 おれはその翼をむしった。


「これ、そのままイケますからね」


「そ、そのままって……?」


 カップ麺のお湯を沸かした簡易コンロの火に近づける。

 ちりちりと表面をあぶって、いい香りがしてきたところで離した。


 それを口に近づける。


 ぶちっ。


「ひいっ!?」


 もぐもぐ。

 うーん、さすがレアもの。

 ちょっと癖があるけど、かなりうまい。

 感覚としてはあれだ。

 上等な燻製さきイカみたいな。


 あー、しょうゆとマヨネーズ欲しい。

 あとビールとかあれば最高だ。

 でもこのダンジョン、酒類の持ち込み禁止だからなあ。


「あれ。主任、食わないんですか?」


「……いらない」


 主任はずるずると伸びきったカップ麺をすすっていた。

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