34-7.異変


『【並盛つゆだく】、エピックモンスターの撃破により100ポイントを獲得です!』


 トーナメント会場が、大きな歓声に包まれた。

 アナウンサーが、解説のピーターにマイクを向ける。


『一瞬の隙を突く、見事な攻撃ですね!』


「実にビューティフルなフィニッシュです」


『ピーターさんとしては、いまの攻防での決め手はなんだと思いますか?』


「フーム。エピックを防御スキルで守ろうとした【小池屋】の発想は見事でした。しかしこの勝敗を決めた要因は、やはりチームとしての熟練度ですネ」


『熟練度、ですか?』


「イエス。ここまでの様子で、各チームの評価を下すならば……」


 言いながら、ピーターは手元のボードに何かを書き始めた。



【牧野】――

 牧野を中心とした連携が見られるが、他のチームの戦略に後手に回るのはNG。


【小池屋】――

 一見、まとまった動きをしているが、実際は個々のパフォーマンス頼りのソロプレー。


【並盛つゆだく】――

 各人のスキルを最大限に利用して、ひとつのプレースタイルを確立している。


【家族マート】――

 他チームに比べてレベルが低く、その差を埋めるための戦術の奇抜さも見られない。


【アトランタス】――

 キルスティール後の切り替えの早さは見事だが、チームとしてのまとまりに不安。



 アナウンサーが、しげしげとそれを見つめる。


『……なるほど。こうして解説されると、チームとしての戦略は【並盛つゆだく】が頭一つ抜けている印象ですね』


「その上、彼らはシチュエーションに応じて即座に各人の役割をこなすソフトさも兼ね備えています。このクールな判断は、メンバーでのダンジョン経験が豊富なのを物語っていますネ」


『それが、この最後のエピックの攻防に現れたわけですね!』


 ピーターは、椅子に深く座り直した。

 隣で黙っていた利根が、ふっとあざ笑うように言う。


「よく言うよ。さっきは寧々センパイが勝つって自信満々だったじゃないか」


 ピーターは苦笑した。


「……まあね。でも、ここまで完成されたアマチュアチームがいるのは、きみだって予想外だったはずさ」


「……フンッ」


 利根はつまらなさそうに鼻を鳴らした。


「これで【小池屋】と【並盛つゆだく】がほぼ並んだ。あとは、どれだけ小物を狩れるかだが、あのとんでもないスキルがある以上、【並盛つゆだく】の勝利は確実だろう」


「そうだね。もはやマキノたちに逆転の目は消えた」


「…………」


「残念だったね」


「……別に。おれが手を下すまでもないということは、所詮はその程度の男だったというだけだ」


 そのとき、アナウンサーの声が響いた。


『あーっと、これは!?』


 ピーターたちは、その映像に目を向けた。


 そこには、牧野たちからふたつほど離れたエリアを走る寧々の姿があった。

 そして同時に、彼女を追う二つの影も。


 それの正体を察すると、ピーターはにやと笑った。


「……どうやら、まだ神さまはこのゲームに満足していないようだね」

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