34-完.延長戦


「ハイドさあーん! わたし、うまくできましたよー!」


 つかさがハイドに抱き着いた。

 額に青筋を立てたハイドが、その頭を肘でゴツンと小突く。


「いったあーい!」


「うぜえ。離れろ」


「ひどいですよーっ!?」


 店長がフォローに入る。


「まあまあ、たまには褒めてあげましょうよ」


「こいつ、すぐ調子に乗るからダメだ」


 それを見ながら、姫乃さんがおれの袖を引く。


「え、え、どうなっちゃうの?」


「どうもなりません。これは負けです」


「そんな!? 最後まで頑張りましょうよ!」


 とはいっても、残り三十分で、200ポイント以上をひっくり返す手段なんか思いつかない。

 相手だって、さらにポイントを重ねてくるだろう。


 あとは【小池屋】か【並盛つゆだく】のどちらが決勝に進むか。

 あるいは敗者復活戦に落ちるかという違いでしかない。


 ……いや、あのポイントのカウント速度が正常なものだとしたら、このステージは【並盛つゆだく】の勝利で確定だろう。


 おれは【並盛つゆだく】のメンバーに歩み寄った。

 手を差し出すと、意外にもハイドはあっさりそれに応じる。


「……すごい射撃スキルだった。完敗だ」


 彼はフンッと鼻を鳴らした。


「おれなどまだだ。あのひとは、もっとすごいからな」


「……あのひと?」


「おれの目標だ。おまえなど、足元にも及ばん」


 ……どっかのプロハンターかな?


 でもアマチュアでこれだけの技術を持ってるなんて、伊達にギルドマスターを名乗ってはいないということか。

 これは油断したおれのせいだな。


「さて、先に戻りましょうか」


「……むぅー」


 姫乃さんはぷんむくれしているけど、こればっかりはどうしようもないからな。


「仕方ないのう。どれ、向こうで美味しいものでも食べようかえ」


 トワはトワで、えらく前向きに負けを認めている。

 ……いや、こいつが戦えれば、もっと結果は違ったんだけど。


「……あれ。そういえば、おまえがこのトーナメントに参加した理由、まだ聞いてないよな?」


「あぁ、あれかの。それは……」


 彼女が言いかけたときだった。


 ――ズズゥーン……ッ


 微かな地響きが聞こえた。

 おれたちはハッとして、そちらに目を向ける。


 そして、その光景に目を疑った。


「う、嘘だろ」


 エリアの向こう。

 巨大な二体のモンスターが、こちらへと歩んでいた。


 一体は、氷の表皮を持つ巨大な二足歩行のモンスター。

 ――『タイタン・ブリザード』


 そしてもう一体は、灼熱の溶岩を身にまとう象のようなモンスター。

 ――『ラヴァ・エレファント』


 それらは雄叫びを上げながら、まっすぐ向かってくる。


「な、なに、あれ!?」


「……『ザ・キューブ』の下層フロアのエピックモンスターです。どうして、ここに?」


 と、同じ方向から寧々が走ってきた。


「おい、すぐ逃げろ!」


「どうしたんだ!」


「なんか、下のフロアから次から次にモンスターが湧いてくるんだよ! ほら、美雪! さっさとエスケープで……」


 おれはじっと、向こうから来るモンスターを見つめた。


 腕章に触れる。

 制限時間のカウントは、着々と縮んでいる。


 しかしそれは、まだ試合が中止になっていないということだ。


「……姫乃さん。どうします?」


 すると彼女は、おれと同じことを考えているようだった。


「そうね。正直言って、このまま終わりっていうのは味気ないわ」


 ちらとトワに目配せすると、自信満々にうなずいている。


「ふふーん。それでこそわしの見込んだ男じゃ。どれ、回復は任せい」


 それを聞いた寧々が悲鳴のような叫びを上げる。


「お前ら、マジか!? あいつら、レベル40でどうにかなる相手じゃねえぞ!」


「まあ、どうせ負けは確定だしな。危なくなったらエスケープで戻れるし、やれるだけやってみるさ」


「……くそ、勝手にしてろ!」


 そう言って、寧々たちは向こうのエリアへ逃げていった。


 さて、もうひと狩りいってみようか。

 おれたちは武器を構えると、迫りくるモンスターたちを見据えた。

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