主任、こっちが本当の延長戦です

35-1.決めたはいいけど


「ハイドさん、ハイドさん! 見てください、あれすごく格好いいですよ!」


「うるせえ、はしゃぐな! ほら、さっさとエスケープで戻れ!」


「えーっ!? なんでですかあーっ!」


「おまえを狙ってんだっつってんだろ! ほら、こっち来い!」


 そう言って、つかさの腕章に触れた。

 青い光が彼女を包み込み、会場へと飛ばしてしまった。


「……どういうことですか?」


「いや、こっちの話だ。それよりキサマ、あれを倒すと言ったな」


「えぇ、まあ。やれるかはわからないですけど」


「おもしろい。おれたちもつき合おう」


「え、逃げないんですか?」


「フンッ。せっかくの大物だ。狙わない手はない」


 まあ、こちらの手は多いに越したことはないか。


 ……あれ。寧々たちがいつの間にかいなくなってるな。

 まあ、あいつらは暫定一位だし、もう戻ったんだろう。


「で、どうやって倒すの?」


 姫乃さんが意気込んで聞いてきた。


「そうですねえ……」


 おれは目の前の状況を鑑みた。


 迫りくる二体の巨大モンスター。

 こちらの戦力は、補助型のおれと攻撃特化の姫乃さん、そして治癒師のトワ。

 しかも、このレベルが制限されたステージ。


 ……なるほど。


「わかりません」


 姫乃さんがこけた。


「さっき、あんなに格好よく決めたじゃないの!」


「いや、しょうがないでしょ。あんな準レイド級モンスター、普通は十人くらいでかかる相手ですよ?」


 しかも二体同時に相手とか、どうしろっていうんだ。


「それでも、なんかこう、あるでしょ!」


「そんな無茶ぶりを……」


 これが仕事なら土下座一択なんだけど、生憎とそういう手が通じる相手には見えないしなあ。


 もう一度、モンスターを見る。


 こちらに向かってきていた二体は、なぜか足を止めてぼんやりとしている。

 まるで自分たちがどうしてここにいるかわからない、というようにも見えるけど……。


 まず、氷属性の『タイタン・ブリザード』。

 まんま氷の巨人、という感じのモンスターだ。

 攻撃手段は巨体による物理攻撃と、口から放出される猛吹雪だ。


 そして炎属性の『ラヴァ・エレファント』。

 タイタンと張り合えるほどのサイズで、溶岩の表皮を持つ象だ。

 攻撃手段は長い鼻による物理攻撃と、鼻の先から吹き出すマグマ。


「……常套手段として、ああいう属性感が強いモンスターは、弱い状況に追い込んで倒します」


「弱い状況?」


「たとえばタイタンは暑さに弱いので、猛暑エリアに誘うんですよ。そして溶かしてモンスター核を狙う。エレファントは、水に落として動きを止めたりします」


「あ、湖なら、向こうのエリアにあったわよ!」


「うーん。あの規模だと、ちょっと湖が小さいかなあ」


 やつらが生息するフロアには、おあつらえ向きな場所があるんだけど。

 ここからそいつらを誘うことは難しいし、なによりこのフロア内で倒さないとポイントとして加算されないからな。


「うーん、そんなに都合のいいシチュエーションは……」


「……ないわよねえ」


 おれたちがうんうん唸っていると、ふとトワがつんつんしてきた。


「のう、お兄ちゃま」


「なに?」


「やつらの弱点とやら、ちょうどいいのがおるではないか」


「え、どこに?」


 すると、トワが二体のモンスターを指さした。


「あいつらをぶつければいいのではないかえ」


「…………」


 おおっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る