34-6.一手先


 はい無理でした。


「ぜえ、はあ、ぜえ、はあ……」


「も、もう、無理……」


「お、鬼いちゃまの鬼畜ー……」


 おれたちは美雪ちゃんの前で完全に伸びていた。


 ……そりゃそうだよな。

 ガチガチの前衛職とダンジョンで力比べとか、ほんとなに考えてんだ。


 美雪ちゃんが憐みのまなざしを向けてくる。


「……マキ兄たち、ときどきアホだよね」


「ぐっ!」


 なにも言い返せない……っ!


 【家族マート】のメンバーはとっくに諦めて他を狩りに行ったし、おれたちもそうするべきだった。

 とはいっても、いまから動いても後手後手だ。

 下手すれば最下位だろうな。


 やっぱり、ここを獲るしかおれたちに道はない。


 だが正攻法ではびくともしない。

 なにか、力に頼らずに盾を動かす方法は……。


「……そうだ」


 おれはふと、それを思いついた。


「姫乃さん、剣を!」


「な、なに!?」


「姫乃さんのスキルで、地面ごと盾をずらすことはできませんか!?」


 いくら美雪ちゃんのスキルでも、地中までカバーすることはできない。

 彼女の足元を動かしてバランスを崩すことができれば、バリアに隙間ができる。


「や、やってみるわ!」


 姫乃さんが、剣を地面に突き刺した。


 こちらの意図を読んだ美雪ちゃんが慌てる。


「ちょ、マキ兄! それ反則でしょ!」


「いや、きみらにそれを言われてもな……」



 そうして、油断したときだった。



 魔力の波が、おれたちを包み込んだ。


 ――探知スキル『マナ・ペイント』

   +

 ――補助スキル『シェア・ビジョン』


 途端、おれたちの視界に異変が起こった。

 急に魔力の波に色彩が生まれ、それは鮮やかな赤色になって可視化される。


 美雪ちゃんの盾から生まれるバリア。

 姫乃さんの剣にまとわせる魔力。

 そして、洞窟の奥に潜むツチカゲの姿。


「ゆ、祐介くん!?」


「落ち着いてください! これは魔素に反応する探知スキルと、その視界を他者に共有させる補助スキルです!」


 でも、いったい誰が?


 おれはすかさず『トレーサー』で、そのスキルの発生源を探った。

 それはずっと向こうの岩場にあった。


 【並盛つゆだく】の、店長と呼ばれていたチャラい見た目の青年。


 いったい、なにを……?


 すると、彼がこちらに向かって叫ぶ。


「つかさちゃん!」


「了解でえ――――っす!」


 幼い感じの声とともに、ちんまい影が上空から降ってきた。

 それは巨大なメイスを振り上げると、思い切り地面に叩きつける。


 ――攻撃スキル『グランドクラッシュ』!


 その魔力は地中で跳ね返り、地面を揺すった。


 ――ズズーンッ!


 ぐらぐらと地面が揺れる。


 それからは、一瞬の出来事だった。


「あ、やばっ!?」


 美雪ちゃんの身体のバランスが崩れ、その盾が前方に傾いた。


 すると、なにが起こったのか。

 探知スキルによって可視化されたバリアが、洞窟の入口からわずかに剥がれる。


 ――その隙間。


 それに気づいたときは、すでに遅かった。


 はるか遠くの岩場の上。


 黒づくめの男が、ライフルの銃口を洞窟の中へと向けていた。


「まずいっ! 美雪ちゃん、盾を戻し……っ!」


 男が、にいっと笑った気がした。


「――遅い」


 銃声が響くと同時に、その弾丸がツチカゲのモンスター核を撃ち砕いた。

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