3-5.ひとは見かけに


本日のクエスト


 お題:イシクイ討伐


 中層部に生息するイシクイの討伐

 イシクイを提出することでクエスト達成とする

 制限時間:本日まで


 基本報酬:酒場のドリンク券

 追加報酬:イシクイの重量によって査定

      なお、希少部位ほど報酬は高い


 イシクイとは、でかいイノシシ型モンスターだ。

 名前の通り岩を食べる生物で、この階層でエサを求めて穴を掘っている。


 その肉は少し癖があるものの、好むひとは多い。


「ということで、まずやつらの生息地を探します。ここのモンスターは、最上層よりも力が強いやつが多いです。でも動きは直線的なので……」


 説明しているのに、どうも主任は聞いていない。

 ぶすっとした顔で、黙々と洞窟を歩いていく。


「主任、聞いてますか」


「……聞いてるわよ」


「いい加減、機嫌、直してくださいよ」


「別に怒ってないし。あんたは若い子といちゃついてればいいでしょ。こちらはお構いなく」


 美雪ちゃんは少し離れた位置で、後方を警戒しながらついてきていた。


「そういうんじゃないですよ。美雪ちゃんとは昔からの知り合いってだけで……」


「はあ? 聞いてないけど」


「……あぁ、もう」


 勝手にしてくれ。

 まったく、誰のために休日を返上してまでモンスターハントに来ていると思っているんだ。


 さっさと狩って終わらせよう。

 イシクイなら、それほど時間はかからない。


 と、なぜか主任がこちらを見ていた。


「ねえ」


「な、なんですか?」


「あんたも、ああいうのが好きなわけ?」


「はい?」


 その視線の先には美雪ちゃんがいた。

 あぁ、あのアーマーのことか。


「いや、まあ、可愛いですよね」


「……ふうううん」


「いや、鎧がってだけですよ。そんな目で見ないでください」


 しかし、どうも主任の様子がおかしい。

 自分の胸当てを、きょろきょろと見回している。


「……どうしました?」


「別に」


 ぷいっとそっぽを向いてしまう。

 ……わけがわからないな。


 そのときだった。


「――マキ兄、伏せて!」


 おれは反射的に、主任を抱きしめる形で地面に押さえつけた。


 ドウンッ、ドウンッ!


 二発の銃声が、空気を震わせた。

 その途端、おれたちの上でなにかが弾けた。


 それがどさっと地面に落ちる。

 巨大な蛇のモンスターだ。

 美雪ちゃんの銃弾に撃ち抜かれて息絶えていた。


 ……こいつ、おれたちを狙っていたのか。


「まったく。マキ兄、ここがダンジョンだって忘れてない?」


 美雪ちゃんがため息をついて、そいつのモンスター核を収集する。


「え、あ、え……?」


 主任はなにが起こったかわからないといった様子だ。

 美雪ちゃんと蛇を交互に見つめている。

 彼女を起こしながら、おれは苦笑した。


「あぁ、主任は知らなかったですよね。美雪ちゃん、プロ免許持ちなんですよ」


 主任は変な感じに口をぱくぱく動かした。


「えええええええええ!?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る