3-6.ようやくクエスト開始だ
「さて、おそらくこの辺だと思うんだけど……」
ちらと主任を振り返る。
「……まだやってるんですか」
主任はうずくまって、読経のように何かをつぶやいている。
「わたしのうしろについてなさい、わたしのうしろについてなさい、わたしのうしろについてなさい……」
そして頭を抱えて叫んだ。
「あんたにはわからないでしょうよ! いわばピアノ教室で年下の子にお姉さんぶってアドバイスしてたら、あとでその子が全国コンクール出場経験者だったなんて聞かされるようなものなの!」
いやまあ、確かにそれは黒歴史一直線だろうけど。
「おふたりさーん。見つけたよー」
と、前を進んでいた美雪ちゃんが言った。
彼女が覗いていた空洞を、おれたちも覗き込む。
「あの岩みたいなの?」
「はい。あれがイシクイです」
確かに初見では、岩だと思うのも無理はなかった。
やつらは柔らかい肉体を守るため、摂取した岩の成分を表皮に変えているのだ。
「いいですね。今回は、先走らないでください」
「ひとがいつも迷惑かけてるみたいに言わないでよ」
いや、実際かけてるんだけど。
とはいえ、さっきのことがあってから主任は大人しい。
「まず美雪ちゃんがやつらの動きを止めます。そこから回り込んで、おれがイシクイを仕留めます」
「ま、待ってよ。いくらプロでも、美雪ちゃんにそんな……」
「大丈夫ですよ。美雪ちゃんもそれでいいね?」
「おっけーおっけー」
「え、あ、ちょ、ちょっと……」
主任は納得してなさそうだけど、おれたちは黙殺した。
「じゃあ、やろう」
そうして、クエストは始まった。
美雪ちゃんが空洞へと立ち入る。
そして、盾を構えた。
「大丈夫なの?」
「まあ、見ててください」
美雪ちゃんを外敵とみなしたイシクイが、臨戦態勢に入る。
うめき声をあげると、そのまま突進してきた。
――ズンッ!
二倍はありそうな巨体を、美雪ちゃんは真正面から片手で受けとめた。
「いいよー」
おれは飛び出すと、イシクイの首のあたりに剣を突き立てる。
手応えは十分だ。
「暴れるよ!」
「了解、後退する!」
おれは飛びのいた。
イシクイが無我夢中で暴れるのを、美雪ちゃんは盾で軽々とさばいていく。
やがてイシクイは倒れると、ぐったりと動かなくなった。
「よし、息があるうちに血抜きをしちゃおうか」
美雪ちゃんが、イシクイの後ろ脚を持ち上げた。
そしてぶんぶんと振り回し始める。
傷口から血がどばどばと飛び散っていった。
「あははははあああ!」
……うわあ、楽しそうだなあ。
彼女のこの方法だけは何度見てもグロい。
いやまあ、そのぶん早く済むんだけど。
「……あれ、どうやってるの?」
「美雪ちゃんは補助型のディフェンダーなんですよ。敵の攻撃を受けるために、限界まで身体能力にポイント振ってるんです」
「へ、へえ……」
血抜きが終わると、後ろ脚をぎゅっと縛って担げるようにする。
なるほど、運搬のためにいっしょに潜ったのか。
「実際のところ、何匹ぐらい必要なの?」
「うーん。このサイズなら二匹あれば十分だと思う」
「わかった。じゃあ、次は……」
「わたしがやるわ!」
主任が名乗りを上げる。
「え。でも、主任にはまだ……」
「なによ。そもそも、このクエストはわたしが受けたものじゃない」
いや、おれたちパーティなんだけど。
「……美雪ちゃん。大丈夫?」
「うーん。まあ、いざとなったらフォローするから大丈夫」
というわけで、二匹めは主任が挑戦することになった。
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