3-完.やっちまった


「見つけました」


 二体めのイシクイは、そこからほど近い空洞にいた。

 さっきよりはサイズが小さめだ。


「じゃあ、さっきのおれのやり方を真似てください」


「わかったわ」


 そうして、美雪ちゃんが空洞に躍り出る。


「こい!」


 イシクイは先ほどと同じように美雪ちゃんに突撃した。

 そして、難なく受け取める。


「い、いくわよ!」


 主任が大剣を振りかぶり、その首のあたりに振り下ろした。


 ――ギンッ!


 しかし当たり所が悪い。

 岩の表皮に食い込むが、それ以上は刃が進まなかった。


 まずい!


「主任、離れて!」


「え、あ、で、でも剣が抜けない!」


「そんなのいいから!」


「で、でも指が離れなくて……!」


 おそらく指が緊張して動かないのだ。

 このままイシクイが暴れたら、主任が危ない。


 おれは慌てて飛び出した。

 しかし一瞬だけ早く、美雪ちゃんが反応していた。


 彼女は腰の銃を手にすると、その銃口を主任へと向けた。


 ――ドウンッ!


 放たれた光の弾丸は、主任の脇腹へと命中する。


 そして一瞬ののち――。


 主任の腕に、膨大な魔力が渦巻いた。

 止まっていた刃に力がこもり、イシクイの首を飛ばしていた。


「マキ兄、黒木さんを!」


「了解!」


 おれは主任を腕に抱くと、そのまま空洞の外に飛び出した。

 一方、頭を失ったイシクイは、さっきまで主任がいた場所へと突進していた。

 その身体がズンッと壁にめり込んで、小さなクレーターをつくる。


 ……ふう。


 攻撃補助スキル『ブースト』。


 対象の力を、一瞬だけ跳ね上げる。

 美雪ちゃんが得意とするスキルのひとつだ。


 盾で守りながら、仲間を魔銃で強化するのが彼女のスタイルだった。


「主任、大丈夫ですか」


 彼女はおれの腕の中で、目を白黒させている。


「う、うん。大丈夫、なんだけど……」


「はい?」


 その頬が、耳まで赤く染まっていた。


「あの、もう、離してほしいなあ、なんて……」


「あ……」


 おれは慌てて彼女を解放した。


「うわあ。マキ兄、だいたーん」


「ち、違う! いまのは事故だから!」


 まったく、こんなときまで茶化すから困りものだ。


 まあ、なにはともあれ、こうしてクエストは達成された。


「じゃあ、こっちを血抜きしたら戻ろっか」


「そうしよう。主任も、それでいいですか?」


 しかし、主任の返事がない。


「主任?」


 振り返って、おれは絶句した。


 主任が顔を真っ青にして、がたがた震えている。

 その目の前には、ちろちろと舌を出す巨大な蛇が……。


 さっきの蛇、つがいだったのか!


 おれが剣を抜いて駆けだした。

 美雪ちゃんも銃を構える。


 しかし、それよりも蛇が早かった。


 主任の首に牙を立てる寸前――。


「きゃあ―――――――――!」


 主任の手が黒い閃光を放った。


 それはおれの目をくらませると、やがて治まる。

 しかし主任と美雪ちゃんが、忽然と消えていた。


 ま、まさか……。


 おれは先日、主任が興味を持っていたスキルを思い出していた。


 転移スキル『バニッシュ』。


 敵をダンジョンのどこかへと強制的に移動させるスキル。


 それを習得するためには、ある下位スキルを覚えなければならない。

 もし、それを彼女が取っていたら……。



 ……やっちまった。


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