3-4.彼女はサークルクラッシャー
ダンジョンからの転移装置は、実は目的地を選択できる。
この装置とリンクした装置はいくつかあって、それぞれを経営者が設定できるのだ。
この『KAWASHIMA』には五階層ごとに転移装置がある。
今回はその地下五階の転移装置へと飛んだ。
「美雪ちゃんが潜るなんて珍しいね」
「お父さんが直接、査定して来いって」
「まあ、手間は省けるだろうけど……」
と、うしろから主任が袖を引いた。
振り返ると、彼女がひそひそと耳打ちしてきた。
「ねえ、どういうこと?」
「な、なんですか?」
その距離の近さに、思わず返事がぎこちなくなる。
「美雪ちゃんって、ここの経営者の娘さんなんでしょ?」
「えぇ。そうですよ」
「大学生だって聞いたけど」
「まあ、そうですね」
「ダンジョンに潜って大丈夫なの?」
「あ、あぁ。そういうことですか。いや、彼女は……」
すると、美雪ちゃんが笑った。
「大丈夫ですよー。だって、黒木さんがついてるじゃないですかー」
ぴく、と主任が反応する。
「そ、そうよね! 危ないから、わたしのうしろについてなさい!」
うわあ、嬉しそー。
ていうか美雪ちゃん、そんなこと言って……。
と、彼女と視線が合った。
そして唐突に、おれの右腕に腕を絡める。
「それに、いざとなったらマキ兄が守ってくれますし。ねー?」
「ちょ、美雪ちゃん!?」
「最近、またうちに来てくれるようになったのはいいけどさあ。全然かまってくれないじゃん。あ、今度、わたしとクエスト行こうよ。ダメ?」
……びくっ。
なぜか悪寒が走り、そっと主任を振り返る。
びゅおおおおおおお。
まるでツンドラの風みたいな軽蔑のまなざしを向けられている。
おれは慌てて美雪ちゃんを引きはがした。
え、えーっと、話題を変えないと。
「と、ところで美雪ちゃん。しばらく見ないうちに防具変えた?」
「うん、そうだよ。テレビで見て、可愛かったから買っちゃった」
そう言って、その場でくるりと一回転する。
流動的なデザインの女性用フルプレートアーマーだ。
しかし、なぜか背中がぱっくりと開いてしまっている。
なぜ背後ががら空きなんだろう。
「……なんか、その、独特なデザインだね」
「あれ、マキ兄。これ知らない?」
「え、有名なの?」
大手メーカーのだったら、だいたいチェックしているはずだけど。
「ううん。海外の小企業のだよ。でもCMが有名でね。別名『童貞を殺すフルプレートアーマー』っていうの」
「……なにそれ?」
「CMで女流プロのマリア・ジャックラントが出てたんだけど、真っ裸にこれを着て一回転するの。背中がすごくエロいってことで、ネットで盛り上がってたんだ」
「それ、防具としてどうなの?」
「完全にネタ装備だね。それにこれ、欠陥品でもう回収されてるし」
「え!?」
「大丈夫、大丈夫。欠陥品って言っても……」
と、なぜか首根っこをぐいっと掴まれた。
「はやく行くわよ」
「ちょ、主任!」
振り返ると、美雪ちゃんがにやにやしながら口元を隠している。
「モテるひとは大変だねえ」
「……そ、そういうんじゃないから」
おれはため息をつくと、慌てて主任を追った。
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