10-完.グリフォン


「これは珍しい形態だ」


 おれたちは風の谷の第5層まで到着した。


「このダンジョンには、ノーマルとレアがいない。各層の洞窟に、その階層を根城にするエピックが存在する。そしておそらく――」


 洞窟を進みながら、ピーターがひとりごちる。


「ここの主たるグリフォンは、この縦穴を使って自由に各層を行き来できるんだろう。やつが上に出てくるルールを特定できなければ、やはりマキノの言う通り『超危険区域』に認定する必要があるだろうね」


「リーダー。あっちに部屋がある」


「よし、マイク」


 ハンチング帽の男が、手をかざした。


 ――補助スキル『鑑定ロイヤル・オピニオン』。


 視界に映るものの名称と、モンスターであった場合はレベルを鑑定する。

 ただしそれは、彼よりもレベルが低いものに限る。


「……特に目新しいものはないな」


「わかった。先に進もう」


 前方の警戒はピーターたちに任せ、おれとアレックスは後方の警戒に当たる。

 ここまで、洞窟はすべて同じような構造をしていた。


 いくつか住居用の部屋があり、そして広間にモンスターがいる。

 敵のレベルは下に降りるほど高くなっている印象だ。


 と、アレックスが聞いてきた。


「……各層のモンスターを無視することはできないの?」


 構造上は可能だ。

 洞窟に入らずに、螺旋階段を下りていけばいい。


 おれたちのクエストはこのダンジョンのエレメンタルの鑑定。

 そこまでモンスターと交戦しないのであれば、それに越したことはない。


 でも――。


「それはやめたほうがいい」


「どうして?」


「理由はふたつある。ひとつは情報の収集。これまで同じ構造だからといって、すべて同じとは限らない。もしイレギュラーな構造があれば、それが命取りになる危険もある」


「もうひとつは?」


「洞窟のモンスターが外に出る可能性もある。下で大量のエピックに囲まれるよりは、一体ずつ潰したほうがいい」


「……そうね」


 ここに来るまで、すでにおれたちはエスケープを二度も使用している。

 この探索で使用してしまえば、今日はもう打ち止めだ。


「マキノ。広間に出るぞ」


 おれはエコーを放った。

 広間に潜む影を探知する。


「……鳥型だ。素早いぞ」


「オーケイ」


 ピーターが踏み込んだ。

 その瞬間、足元にズドドンと何かが刺さった。


「気をつけろ! すでに臨戦態勢だ」


 暗闇の中、風切り音だけがヒュンヒュンと聞こえる。


 ピーターが足元に刺さったものを拾った。

 それは緑色の鳥の羽だった。


「羽の手裏剣ってやつか。さてはSHINOBIだね!」


「……また変な漫画にハマってるのか?」


 キャロルがため息をついた。


「リーダー。日本のサブカルチャー、好き」


 言ってる間に、第二の攻撃が飛んでくる。

 おれはアレックスを守るように、それを盾で弾いた。


「どう落とすんだ?」


「キャロルに任せよう」


 彼女はうなずくと、弓矢を構えた。



 ――射撃スキル『跳弾リコシェ

   +

 ――高熱スキル『尾引テール・ライト



 キャロルの放った矢が、岩に激突する。

 矢じりが砕け散ると、その破片は八方に弾けた。


 そして破片が通過した空間に、白い光が残る。

 それに触れたものは――。


 ――ズパンッ!


 なにかの切断音が聞こえる。

 そしてドサッという墜落音。


「リーダー!」


「よし!」


 ピーターは背中の二刀を抜いた。

 落下音の場所に飛びかかると、そのモンスターの息の根を止める。


「マキノ!」


 おれはフラッシュを発動した。

 その瞬間、マイクがその空間を鑑定する。


「……倒したようだ。この空間に、他にモンスターはいない」


 おれたちはホッと胸をなでおろした。


「モンスター核は?」


「そんなもの無視だ。先に進もう」


 おれはちらと、そのモンスターの死骸を見た。


「…………」


 洞窟の出口が見えてきたところで、ピーターが臨戦態勢に入る。


「さて、問題はここからだ」


 おれたちは出口の脇で構えた。


「マキノ」


 おれはうなずくと、ウルトを発動する。



 ――七重の探知『オーバー・エコー』



 魔力の波が見えない物体をとらえた。

 捉えた瞬間、空間が揺らぐ。

 そして、そこにいたものが姿を現した。



 ――グリフォンがその巨大な翼を広げている。



「ウルトが来る!」


 アレックスが手を伸ばした。

 その手首の腕輪が、青い光を放った。


「『アンダーソン』!」


 途端、おれたちとグリフォンの間に立ちふさがるように、巨大な白銀の鎧をまとった騎士が姿を現した。

 そいつはおれたちの代わりに、グリフォンのウルトを受け止める。


 しかしその風圧で、おれたちは洞窟の奥まで吹き飛ばされた。

 飛ばされる寸前、おれはアレックスの腕を掴んで引き寄せる。


 おれたちは奥の壁に激突した。

 すかさず、ピーターが叫んだ。


「……点呼!」


「キャロル、問題ない」


「マイク、同じく」


「牧野、問題ない」


 しかし、アレックスの声がしない。


 おれは胸に抱いた彼女を揺すった。


「大丈夫か!」


 彼女はうめいた。


「だ、大丈夫。ちょっと、くらっとしただけ」


 とりあえずは無事でホッと胸をなでおろす。


 と、他のメンバーの目がこちらを見ているのに気づいた。


「……な、なんだ?」


「いやあ、さすがマキノ。見せつけてくれるねえ」


 ゲシゲシ。


 いわれのない足蹴を食らう。


「な、なにすんだよ!」


 するとキャロルが肩をすくめた。


「リーダー。またネネに、シカトされた。その腹いせ」


 ろくでもねえな!


 おれは慌ててアレックスを離した。


「とにかく、どうする?」


 ピーターはため息をついた。


「聞かれるまでもない。エスケープで撤退しよう。続きは明日だ」


 おれたちはうなずくと、青い魔方陣に飛び込んで現代に戻った。

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