主任、訳あり外国人がやってきました(後)

11-1.作戦会議をします


「いやあ、やっぱりマキノがいると順調でいいね」


 現代に戻ると、おれたちは着替えを済ませてホテル近くのバーに集合した。

 ささやかな打ち上げと、明日の計画を話し合うためだ。


「おれは探知しかしてないぞ」


「それでもいいんだ。マキノの補助スキルは他には真似できない。あのエコーがあるのとないのとでは大違いだよ」


「あまり持ち上げるな。戦闘になったら、ほとんどおまえたちに任せっきりだろ」


「マキノが後方で目を光らせているから、ぼくらは好き勝手にやれるのさ。うちのパーティも万能型が欲しいよ。どうだい、うちでやらないか?」


 また言い出した。


「冗談もほどほどにしておけ。おれはまだリハビリ中だ。ただの足手まといになるぞ」


「冗談じゃないのにな。それにぼくは、本当にマキノと闘える日を待っているんだよ?」


「いまはおまえの圧勝だろ」


 ふと、ピーターがおれの目を見た。


「……本当に、そう思うかい?」


 その鋭い視線に、おれは言葉に詰まる。


 ……こいつは、昔からよくわからないやつだ。


 おちゃらけていると思えば、急に真面目な顔になる。

 真面目だと思えば、急にふざけだす。


 まるで霧に映った映像を掴むような感覚。

 つき合いはそれなりだが、おれはこいつが本当はどんな人間なのかは知らない。


「……あぁ、そう思うね」


 ピーターは肩をすくめた。


「まあ、いいさ。気が向いたらいつでも言ってくれ」


 そうして、やつはいつもの雰囲気に戻った。


「まったく、クロキチャンはラッキーだね。これほどいい師匠は他にはいない。パワー・レベリングは推奨されるべきじゃないけど、やはり安定して稼げるレベルにならないと面白くはないさ」


「…………」


「ところで、彼女はいまどのくらいだい?」


「……半年でレベル8だな」


 カゲワタリとカマイタチを続けて倒したから、そのくらいになっているはずだ。


「ワット!?」


 ピーターが目を剥いた。


「ど、どうしてさ!?」


「いや、おれ主任と潜るときはウルト使わないし」


「それでも『KAWASHIMA』は隅々まで知ってるだろ!? ほんのちょっとレベリング・マップをたどれば、すぐに10は上がるよ」


「おいおい、別にプロを目指してるってわけじゃないんだぞ。たかが趣味のモンスターハントで、そんな効率重視の回り方はしない」


「でも、マキノが退屈だろ?」


「……まあ、おれが叩き斬れば一瞬だなって思うことは多いよ」


 カゲワタリもカマイタチも、おれが止めを刺そうとすれば一撃で終わった。

 それは自慢とかじゃなくて、そもそものレベルが違うからだ。


 そうすれば、主任のレベルだってすぐに上がるというのは否定しない。


 でも――。


「……まあ、それはいいだろ。それよりも明日のことを話そう」


 ふと、アレックスの視線を感じた。

 彼女はじっとおれを見つめながら、カクテルに口をつけた。


「どうした?」


「……なんでもないわ」


 今日、ダンジョンに潜っているときもそうだった。

 彼女はときおり、こうやっておれを見ている。


 ……まあ、会話に困るというのはおれも同じだけど。


 と、ピーターがテーブルに一枚の紙を出した。

 それには、あの風の谷を側面から書き記した図面が載っている。


「これが今日のマッピング・データだ。マキノのエコーの感覚からして、エレメントまであと七層といったところだね」


「……それだと、明日には無理か?」


「いや、明日で切り上げたい。さっきパーティ・メンバーから連絡があってね。ロック・ドラゴンの痕跡を発見したらしい」


「……なるほど」


 ロック・ドラゴンは、ピーターが一年かけて追い続けているモンスターだ。

 他のパーティに獲られたくないという気持ちはわかる。


「でも、どうする? 実際、あれじゃあ何日かかるかわからないぞ」


「そうなんだ。グリフォンは一層クリアするごとに、ぼくらの魔力を探知して襲ってくる。あれを逃れるのは苦労するよ」


「よほど自分の根城が大切か、あるいは――」


 なにか特別なものを守っているか。


 まあ、どちらにせよ、あいつの目を盗まなければいけない。

 いまのところ、その方法があるとは思えないが。


 みなが沈黙する中、アレックスがつぶやいた。


「……グリフォンをハントするというのは?」


 おれたちは彼女を凝視した。


「正気か?」


「もちろんよ」


「無理だ」


 レジェンド・モンスターのハント。

 それは言うよりも容易いことではない。


 まず時間をかけて、そのモンスターの生態を把握。

 そして弱点を暴いてから、弱らせるために何日もの攻撃を仕掛ける。

 最終的に罠にかけて、止めを刺さなければならない。


 かつてレジェンド・モンスターがハントされたことはある。

 しかし、そのどれもが数十人規模のチームで、数年にかけて行われた。


 ――そのどれかを怠ったものは、おれのようになる。


 するとアレックスは首を振った。


「仕留める必要はないわ。今日の三度の襲撃で、あいつの攻撃モーションはすべて翼を起点にしていた。もしその片方だけでも傷つけることができたら、上には飛んでこられないと思う」


「……なるほど」


 ピーターはうなずくと、考え込んだ。


 おれは眉を寄せる。


「……それは可能か?」


 キャロルがうなずいた。


「可能。防御特化のロック・ドラゴン、リーダーのウルトで穴、空けた。マキノのウルトでブーストかければ、いける」


 なぬ?


「……おまえ、そんなに強くなってたのか?」


「まあね。今年こそはマスターの上位を獲るよ」


 ははあ。

 昔は同格だと思っていたけど、気づけばずいぶんと遠い存在になったものだ。


 と、そこでどうやら、全員がアレックスの案に同意したようだった。


「よし、それでいこう。じゃあ、細かい作戦だけど……」

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