21.5-11.いつものパターンね
「到着だ……」
おれたちは、そのフロアの最深部へと到着した。
「うっわあ」
眼鏡ちゃんが感嘆の声を上げる。
神秘的に青く光る泉。
そして、それに照らされる静かな洞窟。
向こうの世界では、なかなかお目にかかることができない光景だ。
「この洞窟に、そのカーペットを投げ入れるんですか?」
「そうだよ」
「へえ。でも案外、簡単なんですねえ」
さっきのドタバタを簡単と申すか。
……いや、当事者がそう言うなら否定はしないけど。
「じゃあ、行くよ」
「オッケー、マキ兄」
美雪ちゃんとカーペットの両側を持って、そっと泉の中に浸ける。
すると泉の魔素が反応し、青い粒子が光った。
すると、カーペットの脱色された部分に変化が見られた。
「うわ、本当に色が戻ってきましたねえ」
おれは美雪ちゃんに指示を出した。
「出して」
「りょーかい」
ざばっと、カーペットを持ち上げる。
「あれ? まだ戻ってませんよ?」
「ちょっと休憩」
はあ、と一息つく。
「この泉は、ハンターの魔素と共鳴して巻き戻すんだ。だから、すごく疲れるんだよ」
「あ、なるほど。それがもう一つの問題ってことですか?」
「いや、それはちょっと違うかな」
「じゃあ、なにが?」
「……うまく戻すには、扱いが難しいんだよ」
もう一度、カーペットを浸ける。
魔素が反応して、時間を巻き戻していく。
すると、眼鏡ちゃんがつぶやいた。
「あっ」
「どうしたの?」
「あれ」
目を向けると、向こうから見覚えのあるモンスターが寄ってきていた。
さっきの子蜘蛛の一匹だ。
眼鏡ちゃんがそれを持ち上げると、こっちに走ってきた。
「なんか、ついてきちゃったみたいですねえ」
「いやいや、持って帰れないからね」
おれたちはそんなことを話しているときだった。
「…………」
美雪ちゃんの顔が蒼白になって、冷や汗をだらだらと流している。
「み、美雪ちゃん?」
「く、く……」
く?
「蜘蛛おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
彼女が泣きながら飛びついてきた。
「あ、ちょ……!」
バシャーンッ!
手を離したせいで、カーペットが泉に落っこちる。
まずい!
するとカーペットを取り巻いた魔素が、美雪ちゃんの魔素に反応して強く輝いた。
「マキ兄!! 蜘蛛が蜘蛛が蜘蛛が蜘蛛があ――――っ!」
「あ、ちょ、待って、落ち着いて!」
ぐらり、と身体が傾いた。
そのまま、ふたりで泉に落っこちる。
バッシャーンッ!!
「く、蜘蛛! たすけ、やだ……」
美雪ちゃんが必死にしがみついてくるのを、慌ててなだめる。
「だ、大丈夫だから! それより、カーペット……」
それを拾い上げた。
そして、予想通りの有り様に、おれはため息をついた。
それはぼろぼろの穴だらけ状態になって、泉に浮かんでいた。
「うわあ、なるほどー。やりすぎると加工される前の繊維にまで戻っちゃうんですねえ」
眼鏡ちゃんが子蜘蛛の頭をなでながら、しげしげと見つめている。
「まあ、そういうこと」
参ったな。
こうなると、もう元に戻すのは無理だ。
すると、眼鏡ちゃんがつんつんと肩を突いた。
「あのう。でも正直、はやく出たほうがいいと思いますけど……」
「え。なにが?」
「いや、ほら……」
おれたちの身体を指さす。
美雪ちゃんと顔を合わせて、ふとその状態に気づく。
おれたちの衣服が、すでにぼろぼろと崩れ始めていた。
ていうかこれ、もはや裸で抱き合ってる状態じゃね?
「あ、ああ……」
美雪ちゃんの顔がみるみる赤くなっていく。
「あ、あの、これは、そもそも美雪ちゃんが抱き着いてきたっていうか……」
嫌な予感を覚えて、一応、言い訳を出してはみるが……。
そのこぶしが、ぐっと固く握られた。
「二番さんは嫌だって言ってんじゃんかああああああああああああ」
「ちょ、どういう意味!? ……ぐはあっ!」
鋭い一撃を頂戴した。
眼鏡ちゃんが、興味深げにこっちを観察している。
「これがラブコメ戦士か……」
わけわかんないことメモってないで、はやく着替え持ってきて!
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