20-6.返答を


 ラミアは森の中をよろよろと進んでいた。

 モノケロースにやられた傷から、血がどくどくとあふれている。


『……マジで、やってらんねーし。こんな僻地のエレメンタル回収でしくじるとか、くそ劣等種族ども、マジ、ぶっ殺してやる。あの異界人も、ぜってー殺す……』


 ――ガサッ


 ふと脇の茂みで音がした。

 ラミアが振り返ると、そこにひとりのハーピィがいた。


『ああん? てめえ……』


 その姿を見て、ハッと目を見開く。


『そ、騒乱の巫女さま!?』


 慌てて駆け寄った。


『も、申し訳ございません! まさか、こんな失態をさらすとは……』


 言いながら、深くこうべを垂れる。


『エレメンタルを、妙な異界人が守っておりまして……。でも、すぐに別のペットを連れて殺しに行きます! だから、しばしのご猶予を……』


『…………』


『しかし、どうして巫女さまがこんなところに? いえ、これは行幸。失礼ですが、治癒をお願いしたく……』


『……ふふっ』


 そうして、ハーピィはその翼で口元を隠した。

 その様子に、ラミアが眉を寄せる。


『……は?』


『まさか、わしとあの愚妹を見間違えるとはのう。おまえさんの忠誠心も、たかが知れとるよなあ』


 その言葉に、ラミアの口が震えた。


『……まさか、てめえ』


 そのとき、背後に巨大な魔力が渦巻いた。


 振り返って、ラミアはぎりと歯を食いしばる。



 ――グリフォンが、その双翼を広げていた。




 …………

 ……

 …



 翌朝。

 おれとアレックスは、カンテラの家を出た。


「本当に、ごめんなさい」


「いや、いいよ。結果として助かったしね」


「で、でも……」


「それに、おれたちを囮にすることは、その先代ってやつが言ったんだろ?」


「う、うん」


 なおも申し訳なさそうにする彼女に言った。


「助けてくれてありがとう。あのモノケロースにも、言っておいて」


「……うん!」


 彼女に別れを告げて、おれたちは『マテリアル・フォレスト』の出口へと急いだ。


「急ごう。まだ消滅まで時間はあるけど、昨日の戦いの影響が出るかもしれない」


「…………」


「アレックス?」


 彼女はふと立ち止まった。


「ユースケ」


「なんだ?」


 おれが振り返ると、彼女がじっとこちらを見つめていた。


「返事を、聞かせてほしいの」


「…………」


 その瞳は、微かに怯えているようだった。

 おれはその肩に手を置くと、それに答えた。


「おれは――」



 …………

 ……

 …



 それから山をふたつ超えた場所。

 絶壁の上に立っている、ひとりと一頭の影があった。


 ハーピィはにんまりと笑うと、湖の方角を見た。


『ま、これで貸し借りはナシということでひとつ。――異界の戦士よ』

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