24-6.作風被ってますよ
やがて仕事上がり。
おれはその日は、寄り道もせずにまっすぐ社宅に戻った。
テレビ見ながらカップ麺ずるずる食べていると、なんだか空しい気持ちになる。
……あー。
姫乃さんのご飯が食べたいよー。
と、噂をすればなんとやら。
姫乃さんから着信が入った。
『……あんた。なんか元気ないわねえ』
「そ、そうですか?」
『ちゃんと食べてる? カップ麺とかで済ませてるんじゃないでしょうね』
ぎくり。
さすがによくわかっていらっしゃる。
「そ、そんなことないですよ。昨日は海鮮丼とか食べましたし」
『……それ、バランスがいいわけじゃないからね?』
「は、はは……」
うーん。
離れていても頭が上がらないなあ。
『ちゃんと休んでる? 休みはもらえてるの?』
「あ、はい。それは大丈夫ですよ」
『休みはなにしてるの?』
「あ、えーっと……」
どう答えたものか。
ダンジョンに潜る予定があるとか言えないしな。
もし言ったら、あのひとのことだ、飛んでくる可能性だって十分にある。
「……いえ。ずっと寝てますよ?」
『それもどうなのよ……』
うーむ、難しい。
と、そのときだった。
ピンポーン。
「あ、すみません。ちょっとお客さんが……」
おれは携帯をテーブルに置くと、玄関に向かった。
しかし、誰だろうか。
――ガチャ。
「ちぃーす! あたしが来てやったし!」
「…………」
バタン。
「ちょ、なに閉めてんだし!」
ドンドンドン!
「お、おまえ、なにしに来たんだよ!」
「ヒマだから遊びに来てやったんじゃん! 光栄に思え!」
「帰れよ! なに普通に来てんだ!」
ハッ!
いけない、携帯はつながったままだ!
「……も、もしもし?」
『…………』
「あの、主任?」
『……いまの声、誰?』
気のせいだろうか。
その地の底から響く声は、会社の『鬼の黒木』のものだった。
「あ、えーっと、なんか、お隣さんが部屋を間違えちゃったみたいで……」
「はやく開けろし! さもないと、ここでてめえに襲われたって叫んで……」
だあ――――!
「す、すみません! ちょっと黙らせてきますんで! またあとでかけます!」
『あ、こら! ゆう――』
通話を切ると、おれは再び玄関のドアを開ける。
「おまえ、静かにしろよ!」
ここには他にもヘルプで赴任しているやつが住んでいるのだ。
「じゃあ、さっさと上げろっての」
「あ、こら……」
彼女がずかずかと入ってくる。
「うわ、狭ぇー。なにここ、物置小屋?」
「うるさい。おれの部屋だよ」
「うえー。異界人って、マジ貧相な生活してんなあ」
「おまえに言われたかねえよ!」
なんでモンスターに生活をダメだしされなきゃいけないんだよ。
「ていうか、なにしに来たんだ?」
「あたしのマスター、いま仕事モードだし? その間、追い出されてマジで退屈っていうか?」
「いや、おまえの事情なんて知らねえよ」
いや、それより聞くことがあるだろ。
「……おまえ、外に出ていいわけ?」
「ま、騒ぎ起こさなけりゃ大丈夫っしょ」
「あぁ、そう……」
おれはぼんやりと、昨日の説明を思い出した。
――人型モンスターがモンスター核を破壊されると『祖霊返り』という現象が起こる。
それは人型モンスターたちが『先祖の姿』に戻ることを指す。
そしてどのような因果か、その姿とは彼女たちの言うところの『異界人』とさほど変わらないものなのだという。
つまり、彼女たちの先祖は人間に限りなく近い生命体であるということだ。
それがどのような進化をたどったのか、現在ではモンスターとの特徴を併せ持つ存在になっている。
問題は彼女たち七眷属にとって、その姿が忌み嫌われるものであるということ。
あの戦いの末にモンスター核を破壊されたハナは、一族に戻ることもできずに世界をさまよっていた。
やがて力尽きかけた末に。
あのダンジョンを買い取ったばかりの源さんに拾われたということだ。
「……なんか、こうして聞くと嘘みたいだよなあ」
と、ハナがベッドに寝転がってバリバリとスナック菓子を食べている。
「……いや、なんでくつろいでんの?」
「はあ? そんなん、今日はここに泊まるからに決まってるっしょ」
「いや、帰れよ」
「そうしたいのは山々なんだけどおー。うちのマスター、仕事に入ると三日はあのままだしいー? あそこ、寒くて苦手っていうかあー?」
「ふざけんな! さっさと出て……」
「いやあー! おかされるうー!」
慌ててその口をふさぐ。
「ば、馬鹿! やめろ!」
ハナがにやりと笑う。
「ま、というわけで、しばらくよろしくねえー」
「…………」
どうして、こうなるの!?
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