39-10.魔境


 ダンジョンには『魔境』という空間がある。


 たとえば上層と中層の境目にあるフロア。

 あるいはこのダンジョンとダンジョンをつなぐ通路などがそれだ。


 その特徴はただひとつ。


 ――変異種の生息。


 質の違う魔素が交わる場所というのは、それに当てられたモンスターたちにも変化が生じる。


 このフロアの攻略は、一筋縄ではいかないモンスターばかりだ。


「……くそ、やっぱり手強いな」


 だいたい、半分くらいか。

 残りの時間は……。


 そのとき、目の前にブラッドウルフが立っていた。

 しかし、その色は漆黒のそれではなく、黄色と黒のまだら模様だった。


『グオオオオオオオオオッ!』


 やつが雄叫びを上げた。

 途端、おれに襲いかかり、腕に噛みつく。


 ――吸血スキル『エネルギードレイン』発動


 こちらの魔力が吸い取られるような感覚に、頭がくらりとする。

 おれは片手剣を振り上げると、その首を切り飛ばした。


「……くそ、面倒な」


 ――亜種。


 ゲームで言うところの『色違い』と表示されるモンスターだ。

 どちらかのダンジョンに属していながら、まったく別のスキルを持つモンスターたち。


 それが、この通路を結界で封じている理由の一つだった。

 ここでは熟練のハンターでも、足元をすくわれかねない。


 でも、この調子ならいける。

 戻りの時間を考えると、少しペースは上げていきたいが――。


 ぴた、と足を止めた。

 目の前の通路の先から、妙な気配を感じる。


 これは、知っている。


 九州のダンジョンで体験した、ザビエルと似たような空気だ。

 ここでこの魔力をばらまくのは、一体しかいない。


「よりにもよって、ここで遭遇するとはな……」


 ズズズ……、と地鳴りが響く。

 それが大きくなり、やがてその気配が足元に到達する。


 おれはすかさず跳躍した。


 ――ズズゥ――――ン!


 途端、その場に巨大なミミズの怪物がそこを通り過ぎた。

 巨大で鋭利な牙を、ガチガチと打ち鳴らしている。


 ――クラス『トゥルー・エピック』


 古代種『ビッグサイド・ワーム』


 おれはそのモンスターと正面からにらみ合いながら、あとずさる。

 しかし突如、背後にワームの尻尾が突き出して、道を塞いだ。


 ……やるしかないか。


 片手剣『風神』を構えて、それに魔力を込める。


「食らえ!」


 鋭い風の衝撃波が、ワームに襲いかかった。


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