21.5-2.運命の一本を求めて


「主任が喜ぶことねえ……」


 とりあえず、映画でも見繕ってみるか。

 おれは仕事帰りに、レンタルショップに立ち寄った。


 できれば新作がいいよなあ。

 いや、でも新作なら、映画館で見てたことあるかな。

 そう考えると、いっそ古いやつのほうがいいとか?


 わかんねえなあ。

 普段、映画とか見ないし。


 まあ、片っ端から借りてって、面白いやつ見ればいいかな。

 でもなあ、ひとりだとなんか寂しいっていうか。


 なんかひとりでDVD見てると、こう、むずむずしない?


 ――ピリリリ


 携帯が鳴った。


『よう』


「寧々か。どうした?」


『あのさあ。今度、そっちのダンジョンに潜るんだわ。おまえ、手伝う気ない?』


「へえ。どんな?」


『ほら、あそこの、地下水が湧いてるとこ』


「あー。あれね」


 確か美容効果があるとかで、女性ハンターに人気だ。

 空のペットボトル持ったおばさまたちがぞろぞろ押し寄せるの、なかなか圧巻だよな。


「いつ?」


『再来週』


「あ、ならオッケー」


 主任が来るのは来週末だからな。


『ていうか、うるさいなあ。おまえ、いまなにしてんの?』


 そういえば、さっきから新作のVTRが流れまくってる場所に立ってたな。


「レンタルショップ。映画、借りようと思って」


『へえ。おまえ、映画好きだったっけ?』


「いや、そんなことないんだけど……」


 そこでふと、思い当たる。


「おまえこそ、いまどこいるの?」


『え? わたしは『KAWASHIMA』だけど……』


「ちょうどよかった。これからヒマ?」


『……まあ、ヒマだけど』


 なんか間があったけど、まあいいか。


「じゃあ、これからうち来ないか? いっしょに見ようぜ」


『…………』


 なぜか返事がなくなった。


「あれ。寧々さん?」


『あ、ああ』


 それから、たっぷり時間をおいて。


『……いいの?』


 変なこと聞いてくるな。


「いいに決まってるだろ」


『……わ、わかった』


 なんか緊張してるけど、まあいいか。

 おれは適当に二、三本借りると、それを持ってアパートに帰った。



 …………

 ……

 …



「チース」


 勝手知ったる感じで、寧々が入ってくる。

 その手には、土産らしきワインやらチーズやらの入ったコンビニ袋が下がっている。


 おれはグラスを二つ、テーブルに置く。


「オース。適当に座って」


「……あれ?」


 部屋を見回した。


「片付いてんじゃん」


「まあな」


「珍っずらしーの。ていうか、黒木は? 靴なかったし、買い出し?」


「主任は来てないけど。なんか用事あった?」


「え?」


 なぜか固まる。


「……いいの?」


「そりゃいいだろ。あ、もしかして忙しかった?」


「…………」


 微妙な顔で悩んだあと、小さくため息をついた。


「ま、いっか」


 そう言って、テーブルの前の座布団に座った。

 その際、なぜかそっと、襟口からなにかを確認する。


「……しくった」


「え。なに?」


「あ、こっちの話」


 そう言って、ワインをグラスに注いだ。

 それを持ち上げると、にこりと微笑む。


「じゃ、いい夜にしようぜ?」


「は? あ、ああ。そうだな」


 どういう意味だ?

 そう思いながら、おれは借りてきたDVDをセットした。

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