41-完.男女の収入の差が及ぼす影響は
不動産のひとを外に出そうとしたが、奥のほうで気絶していた。
どうやら、ハナのスキルの波動に当てられたらしい。
「……呼吸はあるし、大丈夫かな」
とりあえず、回復スキルで体調を万全にしてやる。
いまは、それより気がかりなことがあるからな。
おれは繭の焼け跡に戻ると、主任たちに聞く。
「どうですか?」
「あんたの回復スキルで火傷は治ったみたいだけど……」
ちら、とその幼女を見た。
褐色の肌に、銀色の髪。
年齢は、小学生くらいかな。
「……たぶん、人間じゃないわよね」
「おれもそう思います」
繭から出てきたってのもそうだけど。
その根拠は。
その背中から生えた透明な翅と、頭の触覚だ。
十中八九、ヒト型モンスターだろう。
「ハナは、この子のこと知ってるか?」
「あたしは下っ端だったから、他の種族のことはあんまり知らねーし。でも、このタイプも初めて見るかもー」
「そうなの?」
「うちらみたいなのって、全部で7種族いるんだよねー。でも、これはどれでもないっぽくね?」
「……まあ、それもそうだな」
ハナの言う通り、ヒト型モンスターの形態は全部で7つ。
鳥人族・ハーピィ。
蛇人族・ラミア。
馬人族・ケンタウロス。
魚人族・マーメイド。
花人族・アルラウネ。
死霊族・リッチ。
妖精族・エルフ。
この翅は、まるで蝶のそれのように見える。
虫型モンスターの亜人は存在しなかったはずだ。
……ん?
なんだろうか、この違和感は。
なにかを見落としてるような。
「……ねえ、牧野」
「え。あ、なんですか?」
「この子、どうするの?」
「ええっと、そうですね。どっちにしろ、まずは寧々か皐月さんに連絡して……」
とりあえず、この子はハンター協会に引き渡すことになるだろうな。
そして、場合によってはこのダンジョンを立ち入り禁止に。
とか考えていると、ハナが奥のほうへと呼ぶ。
「おい、変態! こっち来いよ!」
変態て。
行ってみると、そこにはエリアを埋め尽くすかのような鉱石が積み上げられていた。
「……魔晶石が、こんなに?」
源さんの工房も、すごい数をため込んでいるけど、これはそれ以上だ。
「この空ダンジョンで、なにが起こってるんだ?」
「さあ? でも、ぜってえ変でしょ」
「…………」
まあ、どっちにしろ。
「いったん、外に出るか」
―*―
「……結局、いい部屋、見つかりませんでしたねえ」
「そうねえ」
おれのアパートに戻ると、大きく息を吐く。
「……あの子、どうなるのかしら」
「まあ、寧々たちだから、うまくやってくれるとは思いますけど」
それよりも、だ。
「……おまえ、どうするんの?」
テレビを観ていたハナが振り返る。
「うーん。だって、あたし、帰るとこねえし?」
「…………」
そう言われると、追い出すわけにもいかないしなあ。
「あ、そうだ」
「どうしたの?」
「主任、ペット飼いたいって言ってたじゃないですか」
ハナを指さした。
「どうですか?」
「ちょ、あたしがペットてか!?」
「いや、だって、似たようなもんじゃん」
「似てねえから! てめえ、ひとをなんだと……」
すると、主任が渋い顔で答える。
「……爬虫類はちょっと」
「そうですよねえ」
「納得いかねえええええ!!」
まあ、のんびり考えますか。
―*―
――九州、某所。
「いらっしゃいま……、あ、ハイドさん!」
店長はそちらへ近づいた。
「シフト、明日からでしょ?」
「先に土産を持ってきた」
「あ、どうもどうも」
渡されたのは、マカダミアナッツだった。
「で、どうだったんですかあ?」
「な、なんのことだ?」
「またまたあ。あんな美人と一週間、いっしょに過ごしてたんでしょー?」
と、そのときだった。
入口が開いて、司が飛び込んできた。
「ああ、ハイドさん、ハイドさん! おかえりなさい!」
「う、うむ……」
なにやらぎこちない。
その態度に、店長はぴーんときた。
「ふうん。これは、なかなかうまくいったみたいですねえ」
「あ、いや、その……」
「いやあ、大変だなあ。ハイドさん、司ちゃんにはどう説明するんですか?」
「そ、そのことは、また今度、話すから……」
司はきょとんとした顔だ。
「何の話ですか?」
「いやいや、ちょっと大人の話をね」
「あーっ! ずるいですよ、わたしも混ぜてください!」
「これは、さすがにまずいかなあ」
司はぷーっと頬を膨らませる。
それから、あっとなにかに気づいたように。
「……あ、そういえば、お姉ちゃんからメールが来てたんですけど」
ハイドが、ぎくっとなる。
店長は焦った。
まさか、すでにそっちから真相を知らされているとは思わな……。
「なんか『ヘタレなところまで牧野リスペクトだとは思わなかった。ほんと、うんざりだからあなたにあげる』って言われたんですけど、どういう意味ですか? あと牧野って誰ですか?」
――シーン、と場が静まる。
「……ハイドさん」
「し、仕方ないだろう。あんな美女で、年収(ピー)億円と聞かされて、平然としていられるほうがどうかしている……!」
「……だから正社員試験、受けとこうって勧めてたのに」
店長は大きなため息をついた。
「並盛つゆだくでいいですか? おごりますよ」
「……半熟卵を、つけてくれ」
「あ、わたしも、わたしもーっ!」
今日も店は平和だった。
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