12-2.始まれば楽しいなんて言ったやつは誰だ!


「ハア……」


 おれは当日、気の進まないまま『KAWASHIMA』を訪れた。

 集合は午後三時だったから、あと一時間くらいで開始か。


 面倒くさいなあ。


 でもなあ。

 主任をひとりにしても大変なことになりそうだしなあ。


 具体的に言うと、ひとりで突っ走ってえらいことになりそう。

 あのひと、仕事のときは冷静なのにモンスターハントでは人格変わるし。


「あれ。牧野?」


 エントランスで缶コーヒーを飲んでいると、ふと聞き覚えのある声がした。


「寧々?」


「なにしてんだよ。今日は休みじゃねえのか?」


「いや、ちょっとな。おまえこそ、こんなところでどうした?」


 寧々がこちらに活動拠点を移したのは知っていた。

 しかし『KAWASHIMA』はもう攻略し尽くした場所だ。

 いまは千葉県にあるダンジョンの調査を中心にやっていると聞いたけど。


「いやさ、美雪がまた変なこと企んでるらしいじゃん。それで、今日だけ手伝いに駆り出されたんだよ」


「え。それって、迷宮コンの?」


「そう、それ。あー、めんどくせ。わたしは引率とか柄じゃねえんだけどなあ」


 おいおい、嘘だろ。

 まさかこいつが引率だとは。


 と、寧々が首をかしげる。


「あ、もしかしておまえも?」


「いや、おれは……」


 と、そこへ美雪ちゃんがやってきた。


「マキ兄~。はい、これ」


 そう言って差し出してきたのは、『01』という番号を振ったバッジだ。


「三時になったら二階のミーティングルームで説明あるから。それまでに席についててね」


「……わかった」


 美雪ちゃんは忙しそうに走っていった。


「…………」


 寧々が口元を引くつかせながら、おれを見ている。


「え。おまえ、もしかして……」


「…………」


 やめろ。

 そんな目で見るな。

 おれだって、好きでこんなことしているんじゃないんだ。


「あー、いや、その……」


 なんと説明したものか。


 と、そこに新たな人物が現れた。


「牧野、こんなところにいたの……。あら、寧々さん?」


 主任だった。

 今日はコンパだけどダンジョンに潜るとあって、動きやすそうなラフな格好だった。


 彼女の胸ポケットにも『02』のバッジがついている。


「寧々さん、今日はどうしたんですか?」


「あ。今日の引率、こいつらしいです」


「あら、そうなの? 知り合いで助かったわ」


 と、寧々が呆然とした様子でおれたちを見ている。


「え。おまえら、もしかして?」


「あぁ、参加者側に経験者が欲しいとか言われてな。まったく、主任があんなのに釣られるから……」


「ちょっと、そういう言い方はないでしょ。あんただって、なによそれ。そのやけに真新しいお洒落ジャケット、どうせ今日のために買ったんでしょ」


 ぎく。


「い、いや、ほら。川島さんの手前、みっともない格好はできないでしょ」


「どうだか。あんた、自分の得意分野だからって可愛い子にいいとこ見せようとか思ってるんじゃないでしょうね。わたしたちは、あくまで他のひとの安全のためにいるのよ」


「お、思ってないっすよ。それに、それを言うなら主任だってそうでしょ。なんすか、会社よりも化粧ばっちり決めてるじゃないですか。まつげ長すぎでしょ」


「こ、これは社会人として当然の身だしなみよ。それに、わたしは別にコンパを楽しもうとか思ってないわ。あー、川島さんの特製料理、楽しみー」


「どうだかな。おい、寧々からもなにか……」


 あれ。

 こいつ、なんで震えてんだ?


 と、寧々が叫んだ。


「美雪! わたしも参加する!」


「待った! おまえがいなけりゃ、誰が引率するんだ!」


「そんなん、その素人女に任せりゃいいだろ!」


「馬鹿言うなよ!」


 ここの女性陣は、たまにわけのわからない行動をとるから困ったものだ。

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