30-8.白い服の女


「あのファイルによれば、白い服の女はあの場所でよく目撃されてるみたいだ」


 おれが指さしたのは、ちょうど洞窟の入り口になっているところだ。

 その場所まで近づき、なにか不審なものはないか探してみる。


「実際のところ、どう思ってる?」


「どうって?」


「白い服の女の正体さ」


「……そうだなあ」


 おれはさっきから考えていた、あの白い服の女の可能性を口にする。


「まずテレポート。ハンター自身が白い女の幽霊に成りすましているパターン」


「でも、これはさっきので除外されたろ」


「そうなんだよなあ」


「他には?」


「トークン」


「使い魔か?」


「まあ、そんなとこ。ひとの姿に化けるやつも発見はされてるんだろ?」


「……それは少し無理があるんじゃないかな」


「理論上は可能だ。それに、魔力が消えていたことも説明がつく」


「でも、実現は難しいよ」


「……まあ、そうなんだけど」


 姫乃さんが口を挟んだ。


「どうしてなの?」


「いわゆる使い魔召喚スキル、トークンとかゴーレム、そしてペット使役といったものは、そのダンジョンの環境に大きく左右されるんです。ここほど属性の偏った環境だと、水属性に長けたやつでなければ難しい」


「じゃあ、その水属性に長けたひとっていうのがいるんじゃ?」


 おれは首を振った。


「それがそうも言えないんですよ。おれたちですら、ここではこのウェットスーツがなければ動くことは困難です。使い魔を操作し、同時にそれをこのダンジョンへ適応させる技術を持っているとなると、なかなか……」


「ふうん……」


 使い魔が消滅すれば、魔力の痕跡も消える。

 おれの『トレーサー』で追えなかったのも、一応は納得できるんだけど。


 ピーターが唸った。


「……それなら、いまのところ可能性はひとつか」


「なんですか?」


「幻影スキルさ、クロキチャン」


 おれはうなずいた。


「これまで、白い服の女は遠目にしか姿を現さなかった。それは近づくと映像が歪んだり、その粗が目立つからという可能性があるんです」


「それなら、ここでできるの?」


「ただ、これには媒体が必要です。ガラス片とか、光を反射するもの。さっきから、それを探しているんですけど……」


 残念ながら、そんなものはない。


 そこでふと、姫乃さんが言った。


「ねえ、アレは?」


「アレ?」


「ほら、そのゆ、幽霊が残してた、服って……」


 おれとピーターは顔を合わせた。


「それだ!」


 服の内側に仕掛けがしてあり、光の反射するものが仕込まれていれば可能だ。


「すぐに館長に……」


 おれたちが、現代へと戻ろうとしたときだった。


『クスクス』


 背後に、先ほどまで存在しなかった気配が生まれていた。


 恐る恐る振り返ると、そこには先ほどまで存在しなかったはずの女が立っていたのだった。

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