【発売まであと5日】彼女はネタを探してる


 そしておれたちは装備を調え、この気温差ダンジョンに降り立った。


「うっわあーっ! 寒い寒い寒い! ここ本当に寒いですね!」


「危ないから落ち着いて」


 先行しようとする眼鏡ちゃんを慌てて止める。


 ……これは、主任よりも大変な子だな。


「本当に大丈夫かよ……」


「まあ、おれたちがついてるし、体力にさえ気をつければ大丈夫だろ」


 寧々と話していると、彼女がこちらに寄ってきた。


「あ、ちょっとラブコメ師匠。ラブコメ師匠はこっち」


「え? あ、うん」


 なぜか寧々と密着させられる。


「え、な、なに?」


 そんなおれたちを、端からカメラを撮るような仕草で見回す眼鏡ちゃん。


「うーん。悪くないんだけどなー」


「な、なんだよ」


「こう、ほら。なんというか……」


 なにか焦れったそうに考え込んでいたが、やがて天に向かって吠えた。


「こう、なにか足りないんですよ!」


「そ、そう」


 やっぱり、よくわかんない子だなあ。


「……まあ、しばらく進めば、いいアイデアも出るんじゃない?」


「うーん。そうですねえ」


 そう話していると、ふと寧々がじとーっとした視線を向けてくる。


「え。なに?」


「いや、別に?」


 なんだ?


 するとなぜか、眼鏡ちゃんがキラリと目を輝かせる。


「いまの物欲しそうな表情、いいですね! もう一枚、もらえませんか! あ、ほら、もっとラブコメ師匠と密着して……」


「だあ――――っ! うるせえよ! ほら、さっさと行くぞ!」


 まとわりつかれて、寧々がキレる。

 彼女は肩を怒らせながら行ってしまった。


「あ、ちょ、寧々!」


「……あれ。なんか怒らせました?」


「う、うーん……」


 まあ、なんかこの二人、気が合いそうにはないよなあ。


「とりあえず、寧々を追いかけよう」


「了解です!」


 と、その前に……。


「ちょっと待って」


「なんですか?」


 おれは彼女に手をかざしてスキルを発動した。


 ――補助スキル『悪環境軽減エアスクリーン』発動


 寒さや暑さなどの効果を和らげる補助スキルだ。

 眼鏡ちゃんの周囲に、魔力のバリアを張った。


「これで、だいぶ違うと思うけど」


「…………」


 なぜか眼鏡ちゃんが、難しい顔で考え込んでいる。


「どうしたの?」


「うーん。スキルの効果はいいですけど、そんなのどや顔でやられても盛り上がらないっていうか。あとネームセンスが死ぬほどダサいです。評価はCですね」


 ……やべえ心が折れそう。

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