【発売まであと4日】温泉へ
ほかほかと白い湯気の漂うエリア。
前に主任と見つけた温泉地帯だ。
「へえ。いい感じだな」
あのときは本当にただ温泉があるだけだったけど、いまは大幅に手を入れられて、ずいぶんと設備が整っている。
ダンジョンの入口から転移装置をつないでいるから、素人でも気軽に来れるようだ。
「いやあ、でもまだ問題もあるのよ」
「モンスターか?」
確かに油断してるところを襲われたらひとたまりもないよな。
発見したときにここを根城にしていたゴリラ型は倒したけど、再出現のたびにハントしなくちゃいけないし。
しかし寧々が首を振る。
「最近、覗きの被害があるみたいでさあ。転移装置の使用時間を男女で分けてはいるんだけど、わざわざ徒歩でここまで来て女の入浴時間を待つのもいて困ったよ」
「……あ、そう」
……まあ、ここは遮るものがないからなあ。
でも、手練れのハンターがそのためだけにここを訪れるとか、あり得な……くもないか、最近の日本。
とか、おれたちが話していると。
「ちょっとお! なんですかこれ!」
眼鏡ちゃんが吠えた。
なぜかすごくご立腹のようだ。
「え、温泉だけど?」
「見ればわかりますよ、問題はその過程です! コマ送りみたいに一瞬だったじゃないですかあ!」
「まあ、そうかもしれないけど……」
おれたちも例に漏れず、転移装置で来たからな。
「もっとこう、スリリングな戦いを希望します!」
「とはいっても、今回は仕事だし、無駄な手間を省くのは基本だけど……」
すると眼鏡ちゃん、今度は美雪ちゃんに言い寄る。
「美雪もなにか言ってよー」
「わたしはそもそも、取材には反対って言ったじゃん」
「そんな殺生なー。ちゃんと今回も主人公とのイチャイチャシーン入れてあげるからー」
「だからやだって言ってるんだよ!!」
うーん。
この二人、仲のいいところ見たことないんだけど。
「まあ、とりあえず、モンスターおびき寄せっから。おまえら、注意しとけよー」
寧々が腰のポーチから、野球ボールほどの丸薬を取り出した。
それに火をつけると、地面の上に放る。
ぶしゅーっと、灰色の煙が噴き出した。
それはすぐに、あたりに充満していく。
「これってなんですか?」
「モンスター寄せの魔具だよ」
「ほうほう。なるほど!」
言いながら、くんかくんかと匂いを嗅ごうとしている。
「あ、なんか甘いですね」
「おい、やめろって!」
あれ、あんな風に嗅いでるひと、初めて見た……。
「……なあ、そういえばヘビ型って言ってたけど、どんなやつなんだ?」
「ああ。トキシックボアっていう、麻痺毒を持ってるやつなんだけど……」
「へえ。じゃあ、異常回復のスキルの準備をしとかなきゃな」
そのときだった。
「きゃあ!!」
どぼーんっと、眼鏡ちゃんが温泉に落ちた。
「ああ、こら。いくらなんでもはしゃぎすぎ……」
しかし、彼女はバシャバシャと溺れそうになっている。
いや、でもここは足がつく。
泳げないふりをしてふざけてる――とかじゃないよな、これは。
「寧々、援護!」
「お、おう!」
おれは温泉に飛び込む。
そして、眼鏡ちゃんの足に絡みつくその長い影を見た。
彼女を引きずり込もうと、大蛇がその身体を締めつけていた。
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