38-9.得手不得手がね


『牧野選手の攻撃が、初めて利根選手を捉えました!』


 アナウンサーが叫んだ。


『なんですかいまの!? これまでの攻撃はすべて弾かれましたが、どうしてこの攻撃は通じたんでしょうか! 幻影スキルを解除されたところまではわかりましたけど、次の利根選手の攻撃を弱体させたのはなんですか!?』


 追加のせんべいを出され、寧々はバリバリ食べながら答える。


『牧野や雪村姉妹の【十重の武装】は、十個のスキルを同時展開できるウルトだな?』


『そうですね!』


『これは牡丹・紫苑のように、一つのスキルをガン上げすることで、通常ではありえないパワーを再現する。牧野もよく使ってるけど、あいつはそれより細分化して使うほうが得意なんだよ』


『意味がわからないです!』


『あ、そう。えーっとね。つまりあのウルトを持つやつは世界でも何人かいるけど、どいつも一つのスキルの重ねがけでしか使えないの』


『あれ。でもいま、牧野さんは違うスキルを展開していましたよ?』


『あいつは根っからの器用貧乏っていうか。十個の別のスキルを同時に展開できるのは、いまのところ牧野だけなんだよ』


『そうなんですか!?』


『そうなんです』


『あれ。じゃあ、あのウルトが1スキル特化型として扱うのが推奨されるのは?』


『単純に、別々のスキルを使おうとしても頭の処理が追いつかないんだな。だから一つのスキルを特化することを推奨されるわけ。でもまあ、実際にそっちのが強い局面が多いからな』


 ただ、刺さるときは刺さる。

 特に利根のような、自分の肉体のみを頼る戦闘スタイルには特に有効だ。


『牧野が現役のころは、そんな使い方をするやつはいなかった。だからトップ連中も対処できなかったんだよ』


『でも、威力自体は低いんですよね?』


『そうなあ。……おまえRPGとかやるタイプ?』


『学生のころはよくやってました』


『ターン制のバトルシステムってさ、よくあるじゃん。何ターンか使ってボスを弱体しても、ボスに一ターンで弱体無効されて元通りってやつ』


『ありますね』


『アレで言うと、牧野は一ターンの間に十回くらい行動できる状態なわけ。いくらボスが一ターンに三回くらい弱体無効できても、牧野はそれ以上の弱体スキル撃ってくるんだから、処理が追いつかないんだな』


『ははあ。それで幻影スキルを解呪したあとに仕掛けられた、パワーダウンの弱体を無効化することができなかったわけですね』


『いまじゃスキル保管用の補助アイテムが普通になってるから、ああいう手合いも多いけど。それでも、スキルの展開力であいつに勝てるやつはいないだろ』


『なるほど! そう聞くとすごいですね!』


『伊達にうちのリーダー張ってなかったよな』


『……でも、アレですね!』


『なに?』


『寧々さんの解説、ピーターさんよりぜんぜんわかりやすいですよね! もうあのひと、なに言ってるかわかんないときが多くて多くて……』


『……おまえも大変だな』

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