主任、新エリアを探索しましょう

40-1.不機嫌の理由は?


 ある日の昼休憩の時間。


 いつもは外で食べるけど、今日は忙しくてそれどころじゃなかった。


 食堂という名の、女子社員のたまり場。

 自販機で売っている携帯食料で腹をごまかそうと、おれはここを訪れたのだった。


「あ、これ、かわいー」


 ひとりの女子社員が、携帯の画面を見ながらつぶやいた。

 すぐにその仲のいい女の子たちが、それを見る。


 と、そこでひとりの女子社員と目が合った。

 同じオフィスで、いつも書類の整理を頼む子だ。

 そのまま目をそらすのもばつが悪い。


「どうしたの?」


 すると彼女たちが


「いえー。ちょっと、SNSで動物の画像がのってたんでですよー」


「牧野さんも見ますかー?」


 ハントできない動物にはあまり興味ないんだけど。

 けどまあ、一応はお言葉に甘えることにする。


「どれどれ?」


 すると、どこかの誰かさんが、自分の飼っているブルドッグの画像をのせていた。

 そいつがすやすや眠っているのに、ヘアピンで毛を留めて変顔をつくっている。


 ……うーん。

 正直、スライムのほうが可愛いと思うくらいだけど。


 まあ、いわゆるキモカワイイというやつなんだろうな。

 ていうか、ペットのためを思うなら素直に寝かせてやれよ。


 でもまあ、ここはのっておくか。


「可愛いね」


「ですよねー。うち、ペット禁止だから、」


 と、そのときだった。


 食堂に新たな人物が。

 その顔を見て、女子社員たちがやや緊張する。


 主任だった。

 彼女はいつもお弁当を持ってくるが、今日はいつもの包みは持っていなかった。


「あら。なにしてるの?」


 すると、女子社員が緊張した様子で答えた。


「いえ、ちょっと可愛い動物の画像が……」


「ふうん」


「あ、でも、主任は興味ないですよねえ。アハハ……」


「…………」


 なぜか主任は、機嫌の悪そうな顔でそれを見ていた。


「まあ、ほどほどにね」


 そう言って、彼女は缶コーヒーを買って、オフィスのほうへと戻って行ってしまったのだった。


「あー。怖かったあ。黒木主任、動物とか嫌いなんですかねえ」


「いや、単にサボってるように見えただけじゃないの?」


 おれは主任が去ったほうを見ながら、ぼんやりとつぶやいた。


「いやあ。違うと思うから、安心していいよ」


「え。じゃあ、なんですか?」


「うーん。まあ、ちょっと寝不足とかじゃない?」


「えー、なんですか、それー」


 きゃいきゃいと笑う彼女たちを尻目に、牧野もオフィスへと戻るのだった。

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