16-完.ザビエル


「どりゃあああああああああああああああ」


 主任が雄叫びとともに、海の中で大剣を振るう。

 しかし水を切るだけで、スキル発動の芽は見えない。


「いやあ、ええもんですのう」


 西郷さんがやって来た。

 その手には、ほかほかと湯気を立てるおいしそうな串肉が。


「あれ。バーベキューですか?」


「そうでごわす。いかんせん、このクエストはゲリラ式ですからのう」


「ザビエルは?」


「近づいてはいますが、なかなか表には出ようとせんでごわすなあ。ほれ、牧野どんもどうぞ」


「ありがとうございます」


 目を向けると、向こうでわいわいと肉を焼いているメンバーが手を振った。


「……それで、牧野どん」


 ずいっと濃ゆい顔を近づけてくる。


「なんです?」


「あの女子おなごとはどういったご関係で?」


「いや、会社の上司ですけど」


「ほほう。いやあ、さっきからうちの若いもんたちがじろじろ見ておりましてなあ。牧野どんのコレでしたら不味かばってん、どげんしようと」


「……そういう関係じゃないですけど、できれば控えていただけると」


「はっはっは。冗談ですたい。うちには女子の乳で精神が乱される軟弱もんはおらんでごわす!」


 その割に、さっきから彼らが「おぉ」とか「うおぉ!」とか言っているのが聞こえてるんだけど。

 ……いやまあ、あんなの見るなってほうが無理だよな。


「しかし、なかなか進んどらんようでごわすなあ」


「そうですねえ」


 おれは隣の眠子に向いた。

 やつはいつの間にか、おれの串を奪って野菜だけをむしゃむしゃ食べている。


「なあ、魔法スキルの適性があるやつって、だいたいどれくらいで発動するんだ?」


「そだねー。いま水の精霊が黒ぴーを見定めてるからー、うーん、いけるならそろそろだと思うんだけどなー」


「ちなみに西郷さんのところで魔法スキルを使えるのは?」


「うちにはおらんですのう。ほんま羨ましい限りでごわす」


「えっへん」


 眠子よ、お世辞に本気で威張るなよ。


 と、そのときだった。


『緊急発令。ザビエルが海面付近に上昇。各自、臨戦態勢に入ってください』


 島にアナウンスが入る。

 おれと眠子は弾かれたように立ち上がった。


「主任、こっちへ!」


「黒ぴー。はやくしないと死んじゃうよー」


 主任が慌ててこちらへ移動しようともがく。


「ちょ、ちょっと待って。疲れて足が動かない……」


 あぁ、もう……。


「眠子」


「あいよー」


 砂浜に手のひらを押しつける。

 途端、主任の下の地面が盛り上がった。


 ザバーンと海底から姿を現したのは、巨大なゴーレムだった。

 それは主任を肩に乗せると、のしのしとこちらに歩いてくる。


 西郷さんたちが感嘆の声を上げる。


「ほほう。これが魔法スキルでごわすかあ」


 眠子がどやりながら決めポーズをとる。


 あー、このすぐ調子に乗るのは誰に似たんだか。

 

「……おっ」


 ふと、はるか向こうの海に変化が起こった。

 突然、活火山の噴火にも似た水しぶきが噴き上がる。


 そして海面が盛り上がり、姿を現したのは――。


「出ましたなあ」


「ですねえ」


「おー」


 おれたちはしみじみとそれを眺めていた。


 確認されている中では、間違いなく最高クラスの超ド級巨大モンスター。

 それは漆黒の表皮を持つ、この海の覇者。


 主任が叫んでいた。


「なによ、あれえ――――!?」



 クラス『トゥルー・エピック』。


 古代種〝黒鯨ザビエル〟襲来。

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