13-完.このくらいの距離感
「いやあ、今日も休日なのに悪いねえ」
「まあ、ヒマだしね」
美雪ちゃんに言いながら、おれはクエストの詳細に目を通した。
……マッド・スネークの内臓の収集かあ。
「あ、主任」
びくっ。
「な、なな、なに?」
主任が慌てながら応える。
ていうか、なんでそんなに遠いの?
いや、まあ、おれだって気まずいのは気まずいんだけど。
そんなに露骨だと、こっちもどう接していいやら。
「え、えっと、今日のクエスト、ちょっと長くなりそうなんですけど……」
「あ、そうね。それでも大丈夫よ。どうせヒマだものね」
「美雪ちゃん。じゃあ、これで……」
なぜか美雪ちゃんが、おれと主任を交互に見比べている。
その視線が、妙に疑わしげだ。
「…………」
「な、なに?」
美雪ちゃんはにこりと笑った。
「やった?」
主任がびくっと震えた。
「……え、マジで?」
「ち、ちち、違う! 誤解だ!」
「べつに隠さなくていいのに。寧々さんには黙っといてあげるからさ」
「ほ、ほんとに違うの。誤解なのよ」
「えー。じゃあ、なんでそんな、うっかり流されそうになったところに邪魔が入って空気壊された翌日みたいな感じなの?」
具体的!
なに、この子、もしかして見てたの!?
「ちょ、ちょっと会社でいろいろあってね……」
「……ふうん。まあ、そういうことにしといてあげる」
ていうか、なんで寧々の名前が出るんだ。
いやまあ、先日のことを知られたら確かに殺されそうな気がするけど。
あいつ、こういうことには潔癖だからなあ。
「じゃ、じゃあ、行きましょうか」
「そ、そうね」
おれたちがぎくしゃくしながら更衣室に向かっていると、ふと美雪ちゃんがつぶやいた。
「中学生か」
「うるさいよ!」
…………
……
…
マッド・スネークの内臓は滋養強壮に効く。
大方、今日は街の商店街のおばさま方からの依頼だろう。
巣を発見し、その中にいる目標をおびき出す。
煙玉を放り込むと、スネークがにょろにょろと這い出てきた。
「主任! 首は斬らないでくださいね!」
「任せなさあーい!」
主任がスネークの脳天を剣の側面で殴打した。
そいつは痙攣すると、そのまま息絶えてしまう。
さすがに上層部モンスターのハントは手慣れてきたものだ。
「……さて、じゃあ、身を分けますか」
おれは麻袋に入ったスネークを並べた。
上あごと下あごを引き、その皮と内臓を剥ぎ取る。
そして内臓は保管容器へ。
皮も需要があるので保管容器へ。
「身はどうするの?」
「あー……」
身はそれほど高値がつかないので、置いていくのがポピュラーだ。
「捨てるってこと?」
「はい。うまいはうまいんですけどね」
「…………」
「どうしました?」
と、主任がわざとらしく声を上げた。
「あ、そういえばそろそろお昼の時間ね」
「あぁ、そうですね」
「お腹が空いたと思わない?」
「いえ、もうクエスト完了したので帰りますけど」
「お、な、か、が、す、い、た、と、思わない?」
「……えぇ、まあ」
なんだ?
なにが言いたいんだ?
主任がなにやら荷物をごそごそやり始めた。
なんか抱えていると思ったけど、なんだ?
「じゃーん」
「あれ。それって……」
それは『風の谷』で獲得した調理器具だった。
「どうしたんですか?」
「こんなこともあろうと持ってきていたのよ。どうせあんた、またコンビニ飯で済ますつもりだったんでしょ?」
「えぇ、まあ」
実際、おれの荷物にはカップ麺が入っているしな。
「しかし、きれいになりましたね」
「そりゃ頑張って磨いたもの。ほら、ぼけっとしてないで用意なさい」
「用意って、カップ麺以外になにが?」
「あるじゃない!」
その視線を追うと、積まれたスネークの身が。
「……え。これ食うんすか?」
「そうよ。だって、おいしいんでしょ?」
「まあ、そうですけど……」
とはいっても、特別に食べたいというほどではない。
まあ、やる気満々だから黙ってるけど。
「でも、どうして?」
「少なくとも、わたしが見ている前でコンビニ飯なんかさせないわ。また倒れられたら困るもの」
「大げさですねえ」
「大げさじゃないわよ」
そう言って、彼女はじっと正面から見つめてきた。
「だって、あんたはわたしのパートナーでしょ?」
「…………」
おれは鼻歌を口ずさむ彼女を見ながら、肩をすくめる。
……まあ、たまにはこんなのもいいかな。
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