12-6.ほんとに勘弁してください


 多少のアクシデントはあったものの、それからも迷宮コンパは好調だった。


 主任は寧々に説教されてすっかり大人しくなったし、おれは相変わらず腫れものを触るように扱われている。


 これでいい。

 経験者が下手に手を出すと、壊れてしまう空気というのは存在する。

 おれたちはあくまで不備の状況に備えていればいい。


「とか言って、本当はアレだろ」


「なんだ?」


 寧々がにやにやしながら肘を小突いた。


「おまえ、初対面のやつと話すの本当に苦手だもんなあ。大学のころ、ゼミの飲み会に参加してるとこ見たことねえし」


「…………」


 なんという風評被害だ。

 それではまるでおれがべしゃり下手のぼっちみたいじゃないか。


「余計なこと言ってないで、ちゃんと見張ってろよ」


「はーい、はい」


 しかし暇だ。

 ここにいるのはスライムとかレッサー・バットくらいのものだ。

 麻酔薬で弱らせているから、素人さんでも簡単に……。


「あの、すみません!」


「こ、コーホー?」


「わたしの友だちが、帰って来なくて……」


 なぬ?


 寧々が彼女の肩を掴んだ。


「おい、どこ行ったんだ!」


「えっと、その……」


 言いにくそうに顔を伏せる。


「……さっき、男のひとが別のルートに行こうって」


「はあ!?」


 それは不可能だ。

 順路以外のルートには、モンスターが通れないように寧々のトラップが仕掛けてある。

 そのことは、このダンジョンに入ったときに説明したはずだ。


「その馬鹿野郎は誰だ!?」


「えっと、確か、岸本さんっていう……」


「え……」


 あのアホがあああああああああああああああああ。


「寧々、おまえはここでみんなを集めていろ。おれと主任でうしろのルートを確認する!」


「わかった、頼む!」


 おれは主任を連れて、もとのルートを逆走した。


「いないわ!」


「どこに行ったんだ……」


 しかし、いくら探しても岸本たちがいない。


「もしかして、現代に戻ったのか?」


 ……でも、一般人に転移装置は使えないはずだ。

 他のルートにはトラップがあるし、通ることはできないはずだけど。


「あっ」


 そこでふと、思い出した。

 寧々がやつに、石ころを投げてトラップを発動した場所がある。


「主任、こっちです!」


 その場所にたどり着くと、その違和感にすぐ気づいた。


「……やっぱり」


 その奥に進む足跡を見つけた。

 まだ新しい。


 くそ、手遅れでなければいいけど。


 おれたちは走った。

 その途中に、ふと血の臭いを感じた。


 そして同時に、男の悲鳴が聞こえる。


「く、くるな、くるなああああああああああ」


 岸本だ。

 洞窟に飛び込むと、やつがブラッド・ウルフの前にへたり込んでいるのを見つけた。

 そのうしろには、怯えて泣いている女性もいる。


 木刀を振り回すが、ブラッド・ウルフは歯牙にもかけていない。

 脚に力を込めると、獲物に向かって大きく跳躍した。


「待てこらあああああああああああ!」


 おれはブーストをかけて飛びかかった。

 右足がブラッド・ウルフの横っ面を蹴っ飛ばす。


『キャンッ!?』


 そいつは壁に激突すると、よろよろと通路の向こうへと逃げて行った。


「岸本くんは?」


「……気を失ってるみたいです」


 大きな怪我はなさそうだ。

 とりあえず安堵すると、ふたりを連れてみんなのもとに戻った。


 あー、まったく。

 ダンジョンで世話が焼けるのは主任だけにしてくれよ。

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