41-4.あらすじ回収します


「……ううん。決まりませんねえ」


「……そうねえ」


 不動産屋を回り始めて、もう数時間。

 なかなか、これといった物件に巡り合うことがない。


 いまは喫茶店で休憩中だ。


「あそこはいい感じだったのに……」


「どうかしら。やっぱり、バストイレは別がいいじゃない」


「いまのおれの部屋だって、そうじゃないですか。そういうところにこだわるから長引いてるんですよ」


「あんただって、変なところにこだわるじゃない。なによ、ベランダでBBQしたいって。そんなに広いところ、滅多にないわよ」


「だって、男のロマンじゃないですか」


「そんなの必要ないでしょ。どうせご飯なんてカップ麺ばっかりなんだし」


「た、たまに心のリフレッシュが必要なときもあるんですよ」


「そんなのより、日ごろ便利なほうがいいでしょう」


 いらいらいらいら。


「じゃあ、主任が勝手に決めればいいじゃないですか!」


「そ、そんな言い方、ないでしょ! わたしだって……」


 そのとき!


「ちょいやあ」


 ――ビシッ!


 頭の上からチョップされる。

 見ると、ハナがずごーっとバナナシェイクを飲み干した。


「ていうかあー。あんたらが喧嘩してどうするし」


 ……うっ。

 冷静なツッコミ、おれたちは黙りこんだ。


「……すみませんでした」


「こ、こっちこそ、ごめんなさい」


 いけないな。

 疲れて、精神的な余裕がなくなってきた。


「……とりあえず、次の不動産屋で見つからなかったら、また今度にしましょうか」


「そうね。急ぐことじゃないし、ね」


 剣呑な空気が緩んだ。

 ハナがにやにやしている。


「まったく、手のかかるやつらじゃね」


「…………」


 こいつに言われるのはすごく納得いかないけど、あまりに正論なので言い返せない。


「じゃあ、こっちの不動産屋にしましょうか」


 そこで目についたところに入ってみた。


「あの、ペット可の部屋を探してるんですけど」


「かしこまりました。それでは、いくつか出してみましょう」


 担当してくれた男性スタッフが、いくつかの物件を印刷する。


 ……ううん。

 やっぱり、これまでと似たような感じだ。


「もうちょっと、ないですか?」


「そうですねえ。やはりこれ以上になると、家賃が……」


「……そうですか」


 あと一万くらいはいけるか?


 ……いや、でもな。

 これからのことを考えると、できるだけ蓄えておきたいし……。


「……あの物件は?」


 すると向こうのデスクに座っている初老の男性スタッフが言った。


「ええ、あれですか!?」


「あそこなら、ペット可だし安いよ」


「いやいや、あれはちょっと……」


 主任と目を合わせる。


「……どれですか?」


「あー、いえ。これなんですけど……」


 印刷されたものを見る。


「うわ、安いっ!」


「ほんとね。それに、部屋も広いし……」


「どうして?」


 しかし、そのスタッフは浮かない顔だ。


「いや、これは、ちょっと問題ありな物件で……」


「も、もしかして、事故物件とか?」


「まあ、ある意味で……」


 ある意味?


 すると彼は、微妙な顔で答えた。


「……ここ、ダンジョンなんですよ」


 一瞬、その言葉を理解することができなかった。


「えええ!?」


 ハナの目が、きらりと光った。



 …………

 ……

 …



 その変哲もないマンションの三階。

 担当者が鍵を開けて、中へ迎え入れる。


「……こちらです」


 おれたちはその状況を見て、言葉を失っていた。


「…………」


「…………」


 玄関から入って、バス、トイレ、その向こうにリビングがある。

 リビングから入れる部屋が二つあった。

 洋室と和室、互いに四畳間。


 その和室の押し入れの隙間から、見覚えのある青い粒子が漏れ出している。

 それを開けると、本当にダンジョンへの転移装置があった。


「……これは、どうして?」


「このマンションを建築して、三年めに、ここにダンジョンが発生しまして。それ以来、この状態なんです」


「でもダンジョンが発生したら、他の場所に移されると思うんですけど」


「あれ、お客さん。もしかして、詳しい感じですか?」


「え、ええ。少しだけ……」


 すると主任が言った。


「あら。あんたプロ免きょ……、もがっ!」


「しーっ! 慣れてるなんて知られると、強引に契約させられますよ」


「な、なるほど……」


 いくらなんでも、自宅までダンジョンなんてノーセンキューだ。


「そ、それで、どうして?」


「あ、はい。当初は移動する予定だったんですけど、モンスターが発生しない場所だからということで、そのまま放置されているんです。おかげで買い手がつかなくて、困ってるんですよ」


 ……ザルだなあ。


「他はしっかりしているだけに、もったいないですね」


「ええ。ほとんど新築のままですからね」


 すると、ハナが袖を引いた。


「ねえねえ」


「どうした?」


「これ、入ってみね?」


 転移装置を指さしながら言った。


「い、いやいや。さすがにここは……」


「ええー。どうせここ、最後なんでしょー? 物は試しだって、いつも源さんも言ってっしぃー」


「ま、まあ、そうだけど……」


 新武器の開発といっしょにされても困るんだけど。


 ちら、と主任を見る。

 彼女もどこか、そわそわした感じでうなずく。

 どうも気になっていたらしい。


「……ダンジョンの内覧は可能ですか?」


 すると、担当者は目を輝かせながら言った。


「も、もちろん! それでは管理者に連絡を……」


 ……なんか、断りづらい雰囲気になってきたなあ。

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