4-5.隻眼龍


 いや、ここは狭い空洞なんかじゃない。


 あまりに巨大なせいで、それがモンスターだと気づけなかったのだ。



 ――トワイライト・ドラゴン。



 闇属性を持つ、双角の隻眼龍。

 その特性は『呪縛』と『封印』。

 身体から無数に伸びる闇の魔力によって、対象の行動とスキルを封じ込める。


 背中がぞくりとした。


『マキ兄、ここがダンジョンだって忘れてない?』


 さっきの自分の言葉が脳裏に浮かんだ。

 ここはわたしの家のダンジョン。

 どこか、自分は絶対に安全だと思い込んでいた。


 すぐに『エスケープ』を発動させる。

 しかし青い魔方陣が構築される前に、闇の帯にからめとられて砕かれた。


 ――これは、まずい。


 退路を断たれて、わたしはようやく命の危険を実感した。


 そうだ、わたしよりも――。


「黒木さん、こっちに来ちゃ……っ!」


 ぎょっとした。


 すでに彼女は姿を現していた。

 その大剣を構えて、じっとトワイライト・ドラゴンを見つめている。


 ま、まさか、このひと……?


「なにやってるんですか! 逃げてください!」


「それはできないわ」


「ど、どうしてですか! こいつ、本当にやばいんですって! 野次馬根性もいい加減にしないと本当に死にますよ!」


 すると彼女は、静かに首を振った。


「いいえ。これは年長者の責任よ。わたしはあのとき、引き返すべきだったわ」


 そうして、彼女はトワイライト・ドラゴンに向かって走った。


 攻撃スキル『サンセット・ストライク』。


 その剣に闇の力をまとわせて、対象に突属性と闇属性のダメージを与える。

 彼女が最初のレベルアップで覚えたスキルだ。


「どりゃああああああああああああ」


 べしっ。


 彼女はあっさりと闇の帯にはじき返された。

 すぐさま足をからめとられて宙ぶらりんにされる。


 まあそうですよね!


「きゃああああああああああああ! 無理無理、こんなの勝てるわけないでしょ!」


「…………」


 ちょっとだけ見直したのになあ。


 どうするべきか。

 と、そこでふと、思い出した。


「黒木さん!」


「な、なに!?」


「その大剣、こいつの目に投げつけてください!」


「で、でも腕が動かない……」


「あぁ、もう!」


 わたしは銃を構えた。

 呪縛が届くよりもわずかに速く、二重のスキルを込めた弾丸は黒木さんの腕を撃ち抜いた。


 防御補助スキル『解呪』。

 黒木さんの腕を縛る闇の帯を一瞬だけ消失させる。

 そこに攻撃補助スキル『ブースト』によって、彼女の力を増強した。


「いまです!」


「うおりゃああああああああああああああ」


 黒木さんがその大剣をぶん投げた。


 トワイライト・ドラゴンが隻眼の理由。

 それはかつて、マキ兄たちによって傷つけられたからだ。


 微かに、ドラゴンの身体が強張った。

 大剣は闇の帯に弾かれたが、その隙にわたしを縛っていた力も緩まる。


「黒木さん、衝撃に備えて!」


 わたしは即座にスキルを発動した。


 転移スキル『エスケープ』!


 その瞬間、わたしたちは青い魔方陣に吸い込まれた。

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