9-2.ようこそ、ダンジョン『風の谷』へ


 おれたちはそのダンジョンに降り立った。

 見た感じは『小池屋』と同じオープンスタイルのダンジョンのようだ。


 しかし、地平線は果てしない。

 ここを踏破するとなると、どれほどの時間を要するのか。


 と、そうだった、そうだった。


「主任、大丈ぶ……」


 振り返って、おれは額に手を当てた。


「おえーっぷ……」


「うえーっぷ……」


 うわーっぷ……。

 いくら美女ふたりでも、グロッキーシーンなんて見たくないなあ。


 ……そうだった。

 ふたりは転移装置のないダンジョンへの移動は初めてだったな。


「揺れる、気持ち悪い、おえ……」


「マキ兄、わたし、聞いてない……」


 あー、うんうん。

 ダンジョン経営の転移装置は、揺れを抑える機能もある。

 こればかりは、慣れないひとはいつまでも慣れないからな。


「ほら、ふたりとも! 早く立たないとモンスターが来るかもしれませんよ!」


「う、動かさないで……」


「マキ兄の鬼ぃ、悪魔ぁ……」


 こいつらエスケープで強制的に戻してやろうか。


「……しかし、どこがダンジョンなんですかねえ」


 オープンスタイルにしても、これほど指標のない場所は初めてだ。

 小池屋のように、歩いていくうちにモンスターと出くわしたりするのだろうか。


 ……願わくは、このダンジョンが『超危険区域』でないことを祈るばかりだ。

 一応、美雪ちゃんもいるわけだし、逃げることは問題ないとは思うけど。


「……ていうか、よく川島さんが許したね」


「え?」


「いや、未開拓ダンジョンに入るなんて、ぜったいに許しそうにないからさ」


 すると、美雪ちゃんがきょとんとした顔をしている。

 まるで「なに言ってんの?」とでも言わんばかりだ。


「……もしかして」


「あ、あー! うん、お父さんを説得するの苦労したよー!」


「美雪ちゃん。黙って来たんじゃないだろうね?」


 ぎくり、と強張る。


「で、でも、ぜったいに止められるじゃん!」


「そりゃそうだよ! 未開拓ダンジョンは本当に危ない可能性があるんだよ!?」


「でもこんな機会、滅多にないしさ!」


 まあ、そりゃそうだけど。


 ……来てしまったのはしょうがない。

 美雪ちゃんを帰したところで、主任が大人しく帰るとは思えないからな。


「……あれ?」


 そのとき、ビュウッと強い風が吹きつけた。

 目を向けると、崖のようなものがある。


 そちらに歩いて行った。

 そして縁に立ち、おれは目を見開いた。


「……これは」


 それは崖ではない。


 ――とてつもなく巨大な、縦穴だった。

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