38-5.稲葉利根
『ウォーター・クラブ撃破! しかしモンスター核が無傷のため、ポイントは加算されません!』
アナウンスが流れる。
「……どういうつもりだ?」
「難しいことを言ったか?」
「…………」
なるほど。
まあ、予想はできることだった。
「どうやって奪えばいい?」
「フッ。馬鹿なことを聞かないでくれ。おれたちはハンターだ。なにかを手に入れるためには、力を示すのが当然だろう?」
「……なるほどな」
これもまた予想通り。
利根はこれで、小細工は嫌う。
やるなら正面から、堂々とだ。
「でも、おれがそれに乗る必要はないだろ?」
利根がここにいるということは、最後のエピックのもとにこいつらの危険はないということだ。
ここはそちらに取って返すという手段も……。
しかし、利根が一笑する。
「フハハ! そうだな。あなたはそう言うだろうと思った。いつだって、あなたはまず戦いから逃げようとする」
そう言って、ちらとトワを一瞥する。
「ま、それはあなたのせいではないがな」
「……どういう意味だ?」
「いいや。気にするな。……しかし、ここであなたを逃がすわけにはいかない。その手段は講じている」
なに?
『――ああーっと!』
そこで再び、アナウンスが流れた。
『最後のエピックモンスターが撃破! ポイントが加算されます!』
……くそ。
遅かったか。
おそらくは【どさんこ】か、【黒魔術】が……。
おれはそう思いながら、ポイント一覧に目を向けた。
そして、信じられないものを見た。
ポイント一覧
【迷宮美食探求会】――51
【牧野】――58
【どさんこ+】――59
【黒魔術倶楽部】――72
【ザ・利根!】――285
「な……っ!?」
なぜかポイントが【利根】にカウントされている。
こいつらは、ここにいる。
まさか、牡丹が?
いや、でも、あいつは魔素が切れているはず……。
アナウンスがないということは、それが不正ではないということだ。
その真相は気になるが、いまは目の前の状況を処理することが先だろう。
「……とはいえ、それを手にしたって、もうおまえたちの勝利は確定だろ? おれに、おまえの条件を飲む理由がないな」
「面倒なひとだな。そんなに理由が必要なら、つくってやろう」
「……どういうことだ?」
利根はためらいもなく宣言する。
「チーム【ザ・利根!】のリーダー、稲葉利根が宣言する! この戦いにいて、牧野祐介がモンスター核の奪取に成功した場合、我々はこのトーナメントを棄権する!」
「はあ!?」
すると同時に、アナウンスが流れる。
『こちら運営です。その宣言は受理されました』
これでやつの言葉は、必ず実行される。
「……おまえ、本当にどういうつもりだ?」
するとやつは、フッと笑う。
「最初から言っている。おれが求めるのは、最高の勝利だけだ」
その目は、強い意志によって燃えていた。
「あなたを倒して、おれは過去の弱小たるおれを抹消する」
「…………」
それは、つまり――。
「……わかった」
おれは片手剣を構える。
「ルールは?」
「『バーサス』に乗っ取ろう」
「エスケープが発動するぞ」
「おれのスキルを忘れたか?」
「……そうだな」
その瞬間、利根に向かって突進した。
おれの剣が、利根を捉えたかと思った刹那――。
おれの視界は反転し、天地が逆転していた。
そしてその一瞬ののち――。
――ドカア――――ンッ!
おれの背中は、強かに地面に打ちつけられた。
衝撃のまま、ごろごろと転がった。
すぐに起き上がり、体勢を整える。
……なにも見えなかった。
おれが振り返ると、利根はそのロングコートを脱ぎ捨てた。
その鍛え抜かれた鋼の肉体。
それがゆっくりと、格闘術の構えを取る。
「――来い。今度は、あなたが
前年度、世界ランク総合13位。
ハンター協会が誇る殿堂入りメンバー『
その名を――稲葉利根。
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