第310話 乱戦時の方法
黎たち前衛の四人組は、たった二体の剣使いに翻弄されている、ように見える。
こちらの攻撃はほとんど当たらず、エネミー側の攻撃ばかりが当たる。
そのエネミーの攻撃も、盾や剣で防いだり、避けたりしているのだが、何回かに一回は体のどこかに当たっていた。
保護服やプロテクター、ヘルメットなどの防具類があるので、数回か、エネミーの攻撃が当たっても大きなダメージにはならない。
前衛の四人は、不利な中、よくやっている方だとは思う。
剣使いのエネミーは俊敏だった。
智香子たちだって、今では累積効果による補正を受け、かなり素早く反応できるようになっているというのに、さらにその上をいっている。
特に移動速度が速く、攻撃を受けることはできてもその次の瞬間には別の場所にいて、思うように反撃ができない。
倍の人数の四人で、どうにかその二体のエネミーと互角に渡り合っている。
というのが、現状だった。
そうした状態が長く続くのが、いいこととは思えない。
しかし、智香子や世良月、それに〈スローター〉氏は他のエネミーたちの動向に注意し、対処するのに手一杯だった。
この時点で智香子と世良月で何体かのエネミーを倒し、〈スローター〉氏はその二倍以上のエネミーを倒している。
すでに残っていたエネミーは十体以下になっていたが、生き残っているエネミーほど倒しにくい、なんらかの特性を持っているらしかった。
なにしろ、あの〈スローター〉氏がここまで時間をかけても倒しっきっていない。
直立ネコ型は、どうやら種族的な特性として俊敏ではあるようだ。
少なくとも、智香子たち人類よりは、ずっと。
ただ、それだけが原因ではなく、生き残ったエネミーたちは、全員で連携して、〈スローター〉氏の行動を妨害している。
全員で継続的に、〈スローター〉氏の死角から攻撃を当てようとしてくるので、〈スローター〉氏もかなりやりにくいようだった。
それでも、エネミー側の攻撃を確実にブロックしつつ、隙を見つけては一体、また一体と倒しているわけだ。
一度に五体以上のエネミーに囲まれ、全方向からそうして執拗に攻撃されるのは、〈スローター〉氏にしてもかなりのストレスになる。
その、はずだった。
智香子と世良月は、少し離れた場所に陣取って、一貫して援護射撃を継続していた。
手数の割には効果は薄く、効率的には悪い。
そう断言できたが、エネミー側の動きを遅滞させるくらいの効果はあるはず。
と、そう思いたかった。
実際、智香子と世良月の攻撃によって動きが鈍り、それがきっかけとなって〈スローター〉氏に倒されたエネミーも多い。
また、何度かは、智香子と世良月を直接狙ってきたエネミーを迎撃、あるいは追い返すことも、している。
エネミーたちは何度か試した後、智香子と世良月を攻略することを諦めたようだった。
今、〈スローター〉氏は、例の長大な〈槍〉ではなく、両手に一振りずつの剣を装備して戦っている。
あの〈槍〉は、攻撃力が高く、かなり重いという。
つまりは、俊敏なエネミーたちを大勢、同時に相手にするのには、あの〈槍〉では小回りが利かないと、そう判断したのだろう。
詳細を読み取るような余裕もなかったが、〈察知〉スキルで見たらあの二降りの剣にも銘がついていることを確認できた。
つまりは、それなりの性能を持ち、あるいはなんらかの補正効果さえついている可能性もある、ドロップ・アイテムなのだろう。
〈スローター〉氏は両手に持った剣を器用に扱いながら、時折、エネミーの隙を突いては〈投擲〉や〈ライトニング・ショット〉などのスキル攻撃も織り交ぜていた。
そうした遠距離スキルも、智香子たちよりはよほど熟練している〈スローター〉氏が使えばかなりの威力を発揮する。
実際、〈スローター〉氏がこれまでに倒したエネミーの大半が、そうした遠距離攻撃によって倒されていた。
直撃さえすれば即死、〈ライトニング・ショット〉に関しては、体のそばをかすめただけでも感電してしばらく動きが制限される。
両手の剣は牽制と防御に使い、遠距離スキルで一体ずつ着実に仕留めていく、というのが、こうした乱戦の時の〈スローター〉氏のやり口であるらしい。
その〈スローター〉氏の手元から、また、ぶん、と風切り音を発して、物体が放たれた。
〈スローター〉氏の周囲に群がっていたエネミーたちには当たらず、その物体はそのまま、あさっての方向に向かっていく。
ように、思えた。
の、だが。
その物体はそのまま直進し、見事、前衛四人の周囲にいたエネミーのうちの一体の側頭部に命中し、そのまま頭蓋を粉砕する。
エネミーの頭部にのめり込み、動きを止めたことで、〈スローター〉氏が投擲したのが、奇妙な形状の〈斧〉であることがわかった。
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