第91話 サポート要員の資質

 そんなわけで智香子たちは今日も迷宮に潜っている。

 パーティの面子としては珍しい組み合わせであったが、やるべきことはいつもと変わりがなかった。

 つまり後衛として、ひたすら他のメンバーのサポートに回る。

〈察知〉スキルを利用した索敵、〈ライトニング・ショット〉スキルを使用しての迎撃とエネミー所在地の公知、〈ヒール〉スキルでメンバーの傷を癒やしたりと、智香子にできることはなんでもやっている。

 ただひとつ、直接敵にエネミーを攻撃するスキルには相変わらず恵まれていなかったが、前衛的な直接攻撃に偏ったスキル構成を持つ者が多い松濤女子では智香子のように「攻撃以外ならば大抵のことはこなせる」人材はほとんどいなかったので、かえって重宝されていた。

 弓道部との兼部組の子たちなどは智香子と同じように後衛向きのスキル構成ではあるのだが、ほとんどはやはり〈梓弓〉のスキルを主軸に据えて、他のスキルもその〈梓弓〉を支援するために使われることが多く、つまりは前衛か後衛かの違いこそあれ結局は攻撃主体のスタイルなのである。

 そうなる理由、必然性も智香子は十分理解できる。

 できるだが、この現状はそれでも少し極端過ぎるのではないか。

「せいや!」

「おりゃ!」

「はい!」

 などの女子からぬ怒号が飛び交う中、智香子としては、そう思わないでもなかった。

 現在、智香子たちのパーティは第二階層を攻略中である。

 この階層に出没するエネミーはウサギ型だった。

 ただ、ウサギの形をしていてもかなりの大型であり、全長半メートルほどになる。

 体重も相応で、このウサギは人間と見ると全力で跳ねて体当たりをかましてくるのだった。

 智香子としても見つけ次第〈ライトニング・ショット〉をお見舞いしているのだが、いっぺんに遭遇する数が多くなるとそのすべてを感電させることもできない。

 弓道部との兼部組による〈梓弓〉も、ウサギ型程度ならば一撃で仕留めるくらいの威力はあるのだが、この〈梓弓〉には短時間で連発ができないという欠点がある。

 弓を放つモーションを必要とするので、一度発射すると次の射撃まで数秒の間が空いてしまうのだった。

 結局、突撃してくるエネミーを止めるのは前衛が頼りになってしまう。

 そして、一度混戦に突入してしまうと、智香子の手を離れてしまうという実感があった。

 直接的な攻撃用のスキルを持たない智香子がこうした混戦に参加をしても、有効な打撃を加えることは難しく、エネミーの気を逸らすくらいの役にしか立てない。

 だからこうした状態になってしまった後は、智香子は決まって新手のエネミーからの不意打ちがないよう、周囲の警戒をしながら他のパーティメンバーに〈ヒール〉をかけまくるくらいのことしかしていなかった。

 松濤女子の中では智香子のような後衛向けのスキルばかりを習得している者は極端に少なく、少なくとも一年生の中では智香子一人しかいないようだ。

 直接エネミーへの攻撃に参加する機会は少ないものの、この時点でも智香子のパーティへの貢献度はそれなりであると評価されているのが、まだしもの幸いだったが。

 どのスキルを生やすのかは探索者自身の意思には関係なく、事前に知ることができない。

 実際にはなんらかの機序があるのかも知れないが、今の段階ではその詳細は明らかにされておらず、以前に智香子自身が「ガチャ」にたとえていたように、「運」や「確率」と見る者も多かった。

 とりあえず智香子自身の感覚としては、不遇、とまではいかなくても、少なからぬそうした現状への不満は持っていた。

 このままでは智香子は、いつまで経ってもサポート要員のままなのである。

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