第90話 会話
その日は智香子と黎、佐治さん、香椎さんが同じパーティになった。
この四人が揃うのはなにげにはじめてのことではないか。
盆休みで生徒数が減少した結果、こういう珍しい組み合わせもできやすくなっているようだった。
その他には弓道や陸上、それに演劇部や吹奏楽部との兼部組とも同じパーティになっている。
他の三組はともかく、人数が多くてあまり部外者とは組む機会がない吹奏楽部兼部組の子とパーティを組むのは、智香子としてはこれがはじめての経験だった。
吹奏楽部との兼部組は関谷さん、柏戸さん、森本さんといって、それぞれオーボエ、ホルン、クラリネットを担当しているという。
と説明されても、智香子はそれぞれの楽器の漠然とした姿は想像できるものの、具体的な音色までは頭の中に再現できなかった。
智香子はそこまでクラシックとかオーケストラに精通しているわけではなかったのである。
「そういや黎ちゃんも、入学する前まではブラスバンドとかやってたっていったよね?」
ふと思い出して、智香子が確認する。
「一応は」
黎は頷く。
「え?」
「なになに!」
「楽器、なんだったの?」
吹奏楽部組の三人が食らいついてくる。
「ええっと」
黎は、若干引き気味になりながらも答える。
「コルネット」
「おー!」
と、三人は声を揃えて感嘆した。
「そっちかあ」
「うち、今そっち方面薄いんだよね」
「経験者なら、今からでも兼部でやってみない?」
三人は早口にそういって、黎に迫る。
「いや、それはない」
黎は食い気味に、きっぱりとした口調で断った。
「何年かやってみて、そっちの方面には才能がないって納得できたから」
反論を許さない、妙に断定的な口調だった。
おそらく黎の中では、覆せない決定事項なのだろうなと、その態度と口調を見て智香子は判断をする。
吹奏楽部の子たちも、同じように感じたようだ。
対話を拒否するような黎の態度に鼻白んだのか、話しの接ぎ穂を失って対応ができなくなっている。
「基本的に、無理に誘うのはよくないわけだけど」
佐治さんが、口を挟んだ。
「これだけきっぱりと断っているのなら、おとなしく引いた方がいいんじゃない?」
「勧誘といえば」
香椎さんが話題を変えた。
「この間、外でモデル事務所の人とか名乗った男にスカウトをされかかったのですが」
「モデル!」
「スカウト!」
吹奏楽部の子たちが、今度はそちらに食らいついた。
「どこで!」
「原宿の近くで」
香椎さんは澄ました顔で答えた。
「その場ですぐに断ったのですが、同行していた母の方が乗り気になっていて、そちらを諦めさせるのに苦労をしました」
「母親同伴の時に声をかけられたの?」
「じゃあきっと、怪しげなところじゃなくてしっかりとした事務所だよ」
口々にそんな、勝手な論評をしていく。
説得力があるなあ、と、智香子は思う。
香椎さんはこれで、黙って立っていればなかなかの美少女なのである。
「お金が欲しいのなら、別にそっち方面でもよかったのに」
ぽつりと、黎が小声で呟いた。
「そっち方面で活躍することも、可能性としては考えたことがあるけど」
気を悪くした様子もなく、香椎さんは淡々とした態度で応じた。
「ただ、容姿の比重が大きい世界に入ると、なかなか地の実力というのが外からはわかりにくくなるから。
その点、探索者としてなら、実力と結果がほぼ直結しているし」
「それと、運がね」
佐治さんが、そう指摘をする。
「エネミーを倒せるようになっても、ただそれだけで安定した収入を確保できるとは限らないわけで」
「そうだね」
その言葉に、黎も頷いた。
「ドロップするアイテムを、探索者の側が選ぶことはできないから」
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