第127話 扶桑さんの会社へ
中学生には中学生なりにやるべきことがいくらかあり、しばらくは扶桑さんの会社を訪問する時期を特定することができないでいた。
智香子は塾にも習い事にも通っていなかったが、部活がだいたい週末などに固まっているので、平日の放課後はだいたい勉強に費やすことになる。
松濤女子のプログラムは普通の学校とあまり変わらないはずだったが、ほとんどの学科で先生方は教科書に書かれている範囲を超えて細かい部分にまで及んで教えており、頭に叩き込む内容はかなり多かった。
そのおかげで物覚えに自信がない智香子などはかなりの時間を割かないと定期試験で悲惨な成績になってしまうと予想され、それを避けるために智香子は普段からかなりの努力をしている。
中高一貫校であるから、これだけ詳しく教えるのかな。
などと、智香子は思う。
どの教科も最小限の知識だけを教えてそれで終わり、ではなく、その背後にある思想や歴史まで、あるいは時事問題に絡めたことまで、時には他の学科の領分にまで及んで教えてくれるという意味で、松濤女子の教育は特殊であるとも思う。
無論、将来大学を受験する時に困らない内容はしっかりと含んでいるはずだったが、そこからはみ出た内容をかなり教えているような感触があった。
卒業生が各分野で多彩な業績をあげているというのも、納得ができる気がした。
もっとも、教えられる内容が本格的になればなるほど、それを教えられる側は苦労をすることになるわけで、智香子などは落ちこぼれないためだけにかなりの努力をしなければならなくなる。
真面目というかそれ以前に、智香子は負けず嫌いな性格であり、他の同級生たちから遅れることをどこか恐れている風でもあった。
そうした学業と部活の合間をどうにかして作り、実際に扶桑さんの会社を訪ねることができたのは、結局〈白金台迷宮〉に遠征をしてから十日ほど経ってからだった。
事前にメールで連絡をして約束を取りつけたわけだが、智香子以外に黎、佐治さん、香椎さんにも着いて来て貰っている。
実際に扶桑さんの会社にお世話になるとすればこの四人全員で、ということになるはずであったし、なにより、智香子一人では心細い。
それに、本来なら確実に確認するべき事項を見落とすおそれがあったためでもあった。
相手の会社を訪ねるということは、つまりは一種の商談であり、そんな場に智香子一人で行くことは不安である、という理由が一番大きかったが。
もっとも、智香子たちにしてみれば、この会談が失敗に終わった場合でも失う物はなにもない。
せいぜい、迷宮に入る機会が多少減るくらいであり、金銭的な損失があるわけでもない。
そのも意味では、気が楽でもあった。
いずれにせよこうした場に出るのがはじめてである智香子としては、やはり同じ立場の仲間が同行してくれた方がなにかと安心ができ、また、相手側の扶桑さんも黎たちが同行してくれることをあっさりと快諾してくれた。
そんなわけで、その日の放課後、学校を出た智香子たちは、学校からすぐそこにあるオフィスビルへと向かう。
扶桑さんの会社は智香子たちが通う松濤女子のごく近所にあり、ということはつまり〈松濤迷宮〉からもかなり近い場所にあったのだ。
その方が、どこかの迷宮に近い方が、なにかと便利なんだろうな。
智香子は、そんな風に思う。
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