第126話 車中での会話

 帰る時、渋谷までみんなでいっしょの電車に乗った。

 全員、渋谷にある松濤女子に通っているわけだから、当然のように渋谷を経由する路線を使用して通学をしているわけで、これは別に不思議でもなんでもない。

 渋谷へと向かう山手線の中では、自然と今日のことが話題になる。

「なんというか、濃かった」

 そういったのは、佐治さんだった。

「迷宮内での行動についてはともかく、それ以外の情報量が」

「よく考えてみればありたまえなんだけど、一口に探索者っていってもいろいろな人がいるんだよな」

「その当然をよく理解できていなかったことも、確かでさ」

 そう答えたのは、黎である。

「松濤女子の中にいるだけでは目に入らないこともたくさんある。

 そう実感できた」

「黎ちゃんが、そんなことをいったうんだ」

 智香子は、そういう。

「この中では、一番探索者のことに詳しいのに」

「詳しいっていっても、知り合いに探索者が何人かいるってだけだしね」

 黎は真面目な表情でそういってから、頷いた。

「その人たちはみんな大人で、こっちは横から大人同士のはなしを聞いていただけだし」

 年齢的なことを考えると、そうなるのかな。

 と、智香子は想像をする。

 確かに大人の探索者にしてみれば、まだ小学生にしかならない黎にむかって探索者の詳しい内情を説明する必要性はどこにもないわけで。

「それよりもこれからどうするか、だよね」

 香椎さんが智香子に確認をする。

「扶桑さんとかいう人の会社にはいってみるの?」

「うん、一応」

 智香子はあっさりと頷いた。

「せっかく紹介して貰ったわけだし、それに説明くらいは直接聞いてみないと」

 この時点で智香子としては、その扶桑さんの会社を手伝うかどうか、迷っている部分もある。

 なにしろまだ智香子たちは中学一年生でしかなく、どんな形であれ企業の活動に参加することに対して気後れしている部分もあった。

「〈松濤迷宮〉のすぐそばにあるってことだしなあ」

 佐治さんがそういった。

「学校帰りに寄ってみても、別に損をすることはないだろう。

 それに、詳しい内容を聞いた後で、断る理由があったらきっぱりと断ればいいだけだし」

「また、そんなに気軽に」

 そういう佐治さんの態度を見て、黎が少し険しい顔つきになった。

「その扶桑さんという人も、会社を経営しているくらいだからきっと忙しいはずだし」

「でも、気軽に相談してね、って連絡先貰ったけど」

 智香子はそういって自分のスマホを持った手を振った。

 その場でその扶桑さんという方と相談をしろ、といわれなかっただけいい。

 と、智香子も、思わないでもなかった。

 あの場では連絡先を交換するだけで済ませたのは、少しは自分で考える時間をくれた、ということかな、と、そんな風にも思う。

「絶対、行くべきだと思う」

 香椎さんは以外に強い口調でそういった。

「もっと見聞を広げて、自分たちの可能性を広げないと」

「う、うん」

 智香子は香椎さんの態度に若干引きながらも、頷いた。

「一応、相談というか詳しい説明を聞くために、顔だけでも出すつもりだけどさ」

「そうだね」

 黎が、智香子の言葉に頷く。

「今後どうするのかは、もっと詳しい内容を確認してから決めればいい」


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