第125話 ソロの可能性

 十分に休憩を取ってからまた迷宮に入り、一時間ほどウサギ狩りに興じてからその日は解散ということになった。

 ふかけんの人たちも松濤女子と同じく、長時間に渡って迷宮に入り浸ることは避けているようだった。

 ことによるとその部分は、ほとんどの探索者が共通して気をつけているのかも知れない。

 いくら累積効果によって諸元の能力が増大しようとも、中身が人間である以上は、注意力を集中できる時間も自然と限定されてくる。

 そう考えると、

「一回あたりの潜行は短めに切り上げる」

 という方法論は、妥当であるともいえた。

 城南大学の人たちも松濤女子も、経済的な採算性を極端には重視していないからということもあるのだろうが。

 あるいは。

 と、智香子は考える。

 採算性重視で探索者やっている人たちなかには、もっと長時間に渡って迷宮に入り浸っている人もいるのかな。

 智香子自身はこの時点で、そうした専業探索者たちの内情を詳しくは知らなかった。

 ただ、今日の会話に出てきただけでも、〈所沢迷宮〉のエースだの〈スライム・キラー〉だの、一口に探索者といっても漠然と想像していたよりは多種多様な人間がいるのだなあ、ということは、漠然と理解できた気がする。

 結局、人それぞれ、ということなんだろうな。

 と、智香子は一人でそう結論をする。

 これまでに見聞してきた内容から察するに、おそらくは、「平均的な探索者」というのはどこにも存在はせず、それぞれの別個のスタイルを持った雑多な探索者が、それぞれ勝手な方法論で迷宮に挑んでいる。

 というのが、実態に近い想像なのだろう。

 松濤女子の場合、生徒たちの安全確保を第一義としているため、集団行動を前提とし、接敵必殺的な攻撃力偏重の方法論になりがちなわけだが、必ずしもそれが探索者全体の標準的なスタイルである、というわけでもなさそうだった。

 なにせ、ソロで迷宮に入り続けている人もいるそうだしな。

 智香子は、そう考える。

 ずっと、一人きりで。

 松濤女子のメソッドからは考えられない方法であったし、それを除いても智香子自身は絶対に真似をしたくはない方法でもあった。

 大勢の人間が肩を寄せ合うようにして迷宮に入るのならば、まだしも耐えることができる。

 しかし、あの広大で入り組んだ迷宮の中を、たった一人でさまよい歩くという行為はいかにも心細く、智香子だったら絶対に不安に駆られて数分もせずに迷宮から出て来てしまうだろう。

 今の時点でこそ、智香子は浅い階層のエネミーならば単独でも対処できるくらいの実力を備えている。

 いまいち攻撃力には欠ける物の、器用貧乏的に役に立つスキルもまんべんなく生やしてもいた。

 しかし、そうした実力的な部分と精神的な不安とはまるで関係がなく、これまで集団の中の一員としてしか迷宮に入ったことがない智香子は、自分がソロで迷宮に入るところがうまく想像できなかった。

 対エネミー戦だけではなく、迷宮の中では索敵からその他、なんらかのトラブルが発生した場合にも、すべて自力で解決をしなければならないわけで。

 単身で迷宮に入る危険性がある程度現実的に想像できる分、智香子にはその行為がどれほど神経を消耗させるものなのか、かなり克明に思い描けた。

 結果、

「わたしには、無理。

 絶対」

 という結論に、一秒もかからずに達するわけである。

 もっとも、現実的に考えると、まだようやく中学に入学したばかりの智香子は、仮に自分で望んだとしても、これからたっぷり五年半以上も法律によりそれを実現することはできない身であるわけだが。

 時に高額なドロップ・アイテムが算出することもあって、迷宮の出入りは公社によってかなり厳重に管理されている。

 智香子が十八歳の誕生日を迎えるまでは、智香子がソロで迷宮へ挑むことはできそうにもなかった。



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