第300話 智香子たちの方法

 智香子が〈ライトニング・ショット〉スキルを、世良月が〈投擲〉スキルを使用した攻撃で密集したエネミーたちを間引きし、そこに前衛四人組が突入して突き崩す。

 この時店で遭遇するエネミーの数はかなり大がかりになっていて、千体を超える集団であることも珍しくはなかった。

 それも、烏合の衆ではなく隊列を組み、統制が取れた動きをする集団、軍隊といってもいいほどの組織だった活動をするようになっている。

 いくらか数が多くても、スキルによる高熱と放電を全身に纏った〈スローター〉氏が突入していくと、ほぼ例外なく浮き足立って足並みが乱れるのが常だった。

 単身で周囲のエネミーを蹴散らしながら高速で移動する〈スローター〉氏を横目に、智香子たちは手近な集団に狙いをつけて着実に潰していく。

 智香子たち松濤女子組は、〈スローター〉氏ほどの実力を持っているわけではなく、単身で多数のエネミーを相手取ることはできなかった。

 その代わりに、全員でお互いの短所を補いつつエネミーたちを倒していく形になる。

〈スローター〉氏の突入を受けて浮き足立っていた直立ネコ型エネミーの方も、隊長格らしいエネミーがなにやら号令をかけはじめると、すぐに隊列を組み直して智香子たちを包囲しはじめた。

 無論、そんな状態を放置しているわけもなく、そうした隊長格のエネミーは発見次第、智香子と世良月からスキル攻撃の連射を受けて倒されるわけだが。

 隊長格、あるいは、指揮官に相当するエネミーは、場合によっては長距離攻撃の手段を持つエネミー以上に厄介な存在だった。

 放置しておけば、エネミーの集団の戦闘能力を何倍にも引きあげることができるのだ。

 発見し次第、潰す。

 殺すのが無理だとしても、しばらく行動不能になって貰う。

 というのが、これまでの戦闘で学んだセオリーになっている。

 エネミーというより。

 智香子は、スキルを連射しながら考える。

 組織だった軍隊だよなあ、ここまで来ると。

 つまり智香子たちは、外見や体格こそ違えど、人間と同じように組織だった活動ができる生物と正面から戦争していることにある。

 戦力比でいえば智香子たち人間側が圧倒的に不利だったが、その不利を覆せるくらい程度には、智香子たちも戦闘経験を蓄えている。

 無論、一番エネミーたちにダメージを与えているのは、他ならぬ〈スローター〉氏になるわけだが。


「よっと!」

 佐治さんは、かけ声とともに直立ネコ型の全身を手にしていた盾で跳ねあげ、宙高く舞いあがらせている。

 隊列を組んだエネミーたちは、大きな盾を構えた者を前面に出し、智香子たちの攻撃を防ぎつつこちらに進んできていた。

 そこに、同じように盾を構えた佐治さんが正面から組み付き、短い「盾競り合い」を演じたあと、下の方に体を潜り込ませて盾ごとエネミーの全身を跳ねあげる。


 はじめて見た時は智香子も呆れ、驚いたものだが、佐治さんによると、

「そんなに難しいことでもないよ」

 という。

「相手の重心を崩した上で、相手がこちらに向かって来る力を利用して、こう、下の方からすくいあげるとさ。

 まあ、こうなる」

 要するに、柔道の経験を応用して、盾越しに投げ技を使ってみた。

 と、いうことらしい。

 佐治さんは〈盾術〉スキルの練度も順調にあがっていることも、こうした芸当を可能にしている一因になっているのだろう。

 佐治さんはことなげに説明してくれたが、かなりユニークな方法といえた。

 少なくとも智香子は、盾を使ってこんなことをした探索者の例を聞いたことはない。


 佐治さんが開けた穴を、香椎さんが〈ブラックコック・ジャック〉を振るって拡大していく。

 盾な壁にできた隙間を、長大かつ柔軟な鈍器でこじ開けていく形である。

 この場合、密集隊形であったことが仇になった。

 こんなにあっさりと、それもこんな形で盾の壁が破られるとは、エネミー側も想定していないはずで、そこにすかさず横から強い打撃を受けるわけである。

 数名のエネミーたちが横からの直撃を受けてそのまま吹っ飛び、拡大した隙間に黎と柳瀬さんが飛び込んで蹂躙した。

 この二人はともに、近接戦闘特化のスキル構成とスタイルを持っている。

 両手に武器を持ち、あるいは素手で、敵と密着した状態で暴れ回るのは、得意とするところだった。

 いや、防御面に不安があるこの二人は、こうした乱戦でエネミーの側が同士討ちを避けようとする状況下でこそ、最大の威力を発揮する、というべきか。

 エネミーの集団の中に突入した二人は、いいように周囲のエネミーたちを攪乱しながら蹂躙していく。

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