第318話 学校側のフォロー
週末を挟んで翌月曜日、世間では連休に突入していたわけだが、智香子は制服に着替えていつものように登校する。
当然のことながら、いつもとは違って通学中の電車内は空いていた。
補習かあ。
車内のシートに腰掛けながら、智香子は思う。
学習面のことまで学校側がフォローしてくれることは、ありがたいといえばありがたい。
反面、煩わしく思うところもあった。
帰還したばかりの時、公社側の智香子たちに対する扱いにも思ったことだが、大人たちは智香子たちを保護しようとはしている。
心身両面における点検が必要だと判断すれば、智香子たちの心情には構わず断行するし、今回の補習についても、同じようなものだ。
一方で、そうした施策を智香子たちがどのように受け止めるのかは、あまり頓着していない部分がある。
大人がやることって、大体そうだよな。
などと、智香子は思う。
智香子たち、子どもの側がどう受け止めるのか、心情的な部分には構わず、大人側の都合だけを一方的に押しつけてくる。
無論、そうした施策がそれなりの根拠、合理性から出ている場合が多いのも確かなのだが、だからといって智香子たちがそれを面白いと感じるかどうかは、また別問題である。
登校した後、智香子が向かったのは自分のクラスではなく、普段委員会で使用している教室だった。
ロストを経験した六人がその教室に集まり、そこでまとめて補習を受けることになっている。
クラスも学年もバラバラな六人でも、一カ所に集めておいた方が指導する側もなにかと便利なのだろう。
それに。
と、智香子は思う。
補習といっても、大半は自習であり、教師の側は疑問点に答えるなど、最低限のことしかしてくれないはずだった。
連休中に登校している教師もそれなりにいるはずだったが、おそらくは交替で、当番制かなにかで学校に出ているはずであり、平日のように人手が十分に足りているわけでもない。
六人生徒の中で智香子が一番最後に到着した。
智香子が着いた時、他の六人はすでに揃っており、十分な休養を取ることができたのか、全員元気そうだった。
それが確認できて、智香子は安堵する。
挨拶の声を掛け合い、智香子はいつも使っている席に座った。
「休めた?」
「ずっと寝てた」
「こっちもそんなもん」
「自覚していた以上に、疲れていたみたいだね」
仲間たちと、そんな会話を交わす。
「補習ってなにやるんだろうね?」
「大半、自習だと思うけど」
「自宅でやる課題でもよかったのに」
「一カ所にまとめておいた方が、教える側も都合がいいんじゃない?」
「丸一週間分、授業を受けられなかったからなあ」
「全教科で、というと、ちょっと大変だよね」
「うちの授業、密度濃いからなあ」
「ペース速いよね」
「普通にしていても着いていくのが大変だし」
などといった、あまり内容がないやり取りをしているうちに、プリントの束を抱えた勝呂先生が入ってくる。
「はい、全員揃っているね」
ジャージ姿の勝呂先生は、智香子たちを見渡してからそういった。
「じゃあ、今からプリント配るから。
これで、先週、授業で進んだ分をしっかりと確認してください。
質問などがあれば、後で来る教科の先生に質問をすること」
だいたいは自習になるだろう。
智香子もそう予想はしていたので、こういわれても特に抵抗は感じなかった。
配られたプリントにざっと目を通してみる。
どうやら、授業の内容を段階的に、進行状況を確認しながら進められるようにまとめてくれたらしい。
親切というか、妙なところに手をかけてくれるなあ、と、智香子は感心する。
「じゃあ、早速開始して」
勝呂先生は、智香子たちにそう告げる。
「自分のペースで進めて構わないから」
これなら、このプリントだけ貰って自宅で学習してもよかったのでは?
などと、思わないでもなかったが、智香子は素直にプリントを広げ、自習を開始した。
学校側としては、ロストを経験した生徒のフォローをした、という実績が欲しいのかも知れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます