第252話 智香子たちの仕事

「こちらでは、今、なにをやっているんですか?」

 柳瀬さんが、そんな風に訊ねてくる。

「なんか、委員会の中でもこちらは別行動をしていることが多いような印象がありますが」

「ええと」

 佐治さんが、四人を代表して答えた。

「普通の委員としての活動の他に、っていうことだと。

 扶桑さんの会社との提携は、ほぼ片付いているから。

 後は、在庫の不明アイテムの解析、かなあ」

「解析、というほどに厳密なものでもないんだけど」

 香椎さんが、つけ加える。

「うちの学校が死蔵しているアイテムの中に、特殊な機能なスキルがあるものが含まれていないか、確認をしていくことをやっています」

「なるほど」

 柳瀬さんは、あっさりと頷く。

「地味、っていうより、なんかつかみ所がない仕事っすねえ。

 ええと、死蔵されているってことは、現状、活用されていないってわけで。

 そういうアイテムっていうのはだいたい……」

「わざわざ使うメリットがない」

 黎が、その続きを引き取った。

「と、そういう風に考えられているアイテムがほとんど」

「そういうアイテムの有効利用法、を調べる?」

 世良月は、そういって首を傾げた。

「どうやって?」

「いろいろな方法があるけど、実際に使ってみるのが一番かなあ」

 佐治さんは、そういった。

「そうしたアイテムも、なんらかの特徴があることがほとんどだから。

 その特徴を活かした使用法を想像した上で、いろいろな使い方を片っ端から試してみる」

「ただ重たいだけのメイスとか、回転する力が弱まらないだけのチャクラムとか」

 智香子は簡単に説明をする。

「そういう、わかりやすい特徴のアイテムばかりだと、楽なんだけどね。

 その特徴に沿った使い方を考えればいいだけだから」

「そういう特徴さえわかっていないアイテムも、あるわけ?」

 柳瀬さんが、そう訊ねてくる。

「うんとね」

 黎が、そういった頷いた。

「いくつかは、それなりの活用法を見つけられたけど。

 まだまだ、いい使い方が見つけられていないアイテムはごまんとある」

「歴史だけはあるからね、うちの部も」

 香椎さんがため息混じりにそういった。

「結果を出すことを急かされるってことはないから、こちらとしてゆっくりと地道に、調べていくだけなんだけど」

「そんな仕事もあるのかあ」

 柳瀬さんは素直に感心していた。

「確かにそれは、委員会の人しか手を着けない仕事だよねえ」

「いや、委員会でも、最近までほとんど無視されていたんだけどね。

 その手の死蔵アイテム」

 佐治さんは、そう説明した。

「この仕事も実質、うちらがはじめたようなもんだし」

「はじめた?」

 世良月が、そういって首を傾げた。

「去年、例のチャクラムがずっと開店し続けているのをたまたま発見したのがはじまり」

 香椎さんが、そう説明する。

「他にやりたがる人たちもいそうになかったから、委員会の中では新参者だったこっちに回って来ている。

 まあ、そういうお仕事」

「まるっきり、期待をされていないわけでもないと思うんだけどね」

 佐治さんは、そういって肩をすくめた。

「それなりに、成果は出ているし」

「出ているんだ、成果」

 柳瀬さんは、そういって頷く。

「すごいじゃん」

「凄いのかなあ」

 智香子は、首を傾げた。

「手当たり次第、思いつく限りのことを片っ端から試しているだけなんだけど」

「まあ、効率はよくないよね」

 香椎さんが指摘をする。

「そういうアイテムもまったく性質、特徴がが違うものばかりで、そういう手順を一律にマニュアル化することもできなから、どうしても試行錯誤が多くなるわけど」

「使い道がまったく想像つかないアイテムも、少なくないからなあ」

 佐治さんが、そうぼやいた。

「武器とかなら、使い道の方向性が決まっている分、まだしもやりようがあるんだけど」

 改めて考えてみると、こうした死蔵アイテムの使用法を見極める仕事は、迷宮という存在の不可解さと正面から向き合うよな仕事でもあるのだな。

 などと、智香子は思う。


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