第253話 仕事の詳細

「いつまでも、立ち話もなんだから。

 そっちにある適当に椅子持ってきて、座って」

 佐治さんが、そういった。

「机も、用意した方がいいね」

「別の教室にある予備やつ、使ってもいいっていってたけど」

「今日は椅子だけでいいしょ」

 黎と香椎さんが、そうつけ加える。

「パソコンなんかも揃えないといけないし」

「パソコン」

 世良月が呟く。

「必要なんですか、それ」

「まあ、必要だね」

 智香子が答えた。

「うちの活動内容だと、割とオフィス系のアプリは必須だから。

 スマホだけだと、効率が悪いっていうかかなり苦労するはず」

「このパソコンやタブレットなんかも、学校の備品なんすか?」

 教室の隅に積み重ねてあった椅子を持って来ながら、柳瀬さんが訊ねた。

「学校というか、委員会が購入した備品」

 今度は香椎さんが答える。

「必要な物なら、申請すればすぐに発注して揃えて貰える。

 税金対策で、経費は使った方がいいってことになっているから」

 タブレットにせよパソコンにせよ、割と新型で、メモリもたくさん積んだ、高性能の機械を揃えて貰っているんだよな。

 と、智香子は思い返す。

 その方が作業効率がいいのは間違いないので、智香子としても文句をいうつもりはさらさらなかったが。

「キーボード、打ったことない」

 改めて椅子に腰掛けながら、世良月がいった。

「そういうの、触る機会がなかったから」

「すぐに慣れるよ」

 佐治さんが、即座にそう受け合った。

「実際わたしも、触っているうちにすぐにできるようになったし」

「まあ、慣れだよね、この手のは」

 香椎さんも、そういう。

「わかんないことあったら、周りの人に訊けばいいだけどし」

「紅茶とコーヒー、どっちがいい?」

 智香子が席を立ちながら、そう確認する。

「といっても、インスタントとティーバッグしかないけど」

「それと、紙コップね」

 黎が、つけ加えた。

「卒業した先輩が残したいって、立派な茶器もあるんだけど」

「マンセンだかなんだかで一客ン万円以上とかの高級品、気軽に使う気にはならないよねえ」

 佐治さんが、そうぼやいた。

「こんな場所では、紙コップの方が気安いっていうか」

「どうせインスタントしか飲まないしね、ここでは」

 香椎さんは、そういって頷く。

 世良月が智香子に対して「紅茶をお願いします」と小声でいった後、ノートパソコンを指さしながら訊ねた。

「こういうの使って、なにやっているんですか?」

「外部向けの資料を作ることもあるけど、今はうち向けのプレゼンとかをする機会が多いかなあ」

 黎が即答した。

「さっき説明した、アイテムの活用法とかわかった時、探索部のみんなにわかりやすく伝えるとか」

「あ、わたしも紅茶で」

 柳瀬さんは、智香子に向かってそういった後、

「そういう仕事かあ。

 もっとこう、バリバリっと、ネットとか活用して凄いことやっているのかと思った」

「ネットも、使うことはそれなりにあるけど」

 二人の前に紙コップを置きながら、智香子はいう。

「ツールの開発とかは、プロに発注する方が安全で確実だし。

 わたしたちがやるのは、必然的に自分たちにしかできないことだけになるね」

「新しく発見されたアイテムの活用法を広める」ことなどは、まさしくそんな仕事になるんだろうな、と、智香子は他人事のように考える。



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