第36話 黎のアイテム

「馬鹿にしたもんじゃないのよ、それでも」

 装備やアイテムを渡してくれた委員の子が、そうつけ加える。

「この手の杖系っていうのは、長く使い続ければその特殊効果に対する適性が伸びる効果があるから」

 たとえば、この〈雷撃の杖〉の場合、長く使えば使うほど、〈雷撃〉の効果が大きくなる。

 それは、この杖を捨てて別の、もっと上位〈雷撃〉系アイテムを使うようになってとしても、引き継がれる、という。

 すぐには役に立たないとしても、長い目で見ればそれなりに効用はある、ということらしかった。

 つまりは、「どのパラメータを伸ばしたいのか?」によって、所持するアイテムを選ぶべきだ、というわけだな、と、智香子は思う。

 完全に、ゲーム的な発想だった。

 その意味で、攻撃系のスキルをまるで持っていない智香子に対して、この〈雷撃の杖〉を進めてきたこの委員の子の判断は、それなりに的確である。

 智香子としても、そう認めないわけにはいかなかった。

 攻撃系のスキルを持っていないということは、いいかえれば「智香子自身には打撃力が不足している」ということで、それならばいっそ、他のパーティメンバーを支援することに徹する方が効率的なのである。

 その点、この〈雷撃の杖〉ならば、スタン効果が見込めるわけで、攻撃力に不安のある智香子であっても確実にパーティーに貢献ができた。

 智香子自身に攻撃力がなくても、敵側の手数を減らすことによって、味方に有利な状況を作れるのだった。


 黎も、智香子と並んで別の委員の人から同じように装備やアイテムを貰っていた。

「二つもなんて、狡い」

 黎が貰ったアイテムを見て、智香子はそう口を尖らせる。

 黎は装身具と武器、二つのアイテムを委員から受け取っていた。

「こっちは智香子とは逆に、戦闘系のスキルしか持っていないから」

 黎は、智香子をなだめるような口調でそういった。

「そっちの方を伸ばすことを考えた方がいいって」

 黎が受け取ったアイテムは、〈健勝のブレスレット〉と〈比翼の双剣〉。

〈健勝のブレスレット〉は状態異常を防止する効果がある装身具、〈比翼の双剣〉はその名の通り左右一対でセットの短剣だった。

 後者の〈比翼の双剣〉は刃渡りが三十センチほどしかなく、智香子の〈鑑定〉によるとその他に特殊効果が付与されている様子もない。

 武器としてみると貧弱というか、頼りない感じはしたが。

「……劣化遅延、か」

〈比翼の双剣〉は、武器としての特殊効果は持っていなかったが、その代わり、「劣化遅延」という特性があるようだ。

 その名の通り、普通よりも長く使える、ということなのだろうな、と、智香子は思う。

 武器の特性としてみると微妙だが、これはこれで便利そうではあった。

 それよりも、智香子が気になったのは。

「黎ちゃんのだけ、かっこいい」

 という一点である。

 剣、といういかにもなアイテムであることもそうだが、それ以上にデザインがすっとして洗練されている。

 ような、気がした。

 一方、智香子の〈杖〉はといえば。

「なんというか、パステルカラーだね」

 黎が、率直な感想を口にした。

「子ども向けのアニメにでも出て来そうなデザインだ」

 痛いところを、と、智香子は顔を顰める。

 黎の感想は、智香子が最初に思ったこととほぼ同一だった。

 中学生にもなってこんなのを振り回さねばならないのか、と、智香子は先ほどからかなり憂鬱に考えている。

「チカちゃん」

 黎は、真面目な顔をして、そういった。

「魔法少女って呼んでいい?」

「それだけは止めて」

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