第37話 ロッカーから推察する、松濤女子の財務状況

 松濤女子では中等部高等部の区別なく、生徒の一人一人にロッカーが貸与されている。

 自分が所属するクラスの前にずらりと並ぶロッカーは、かなり大きかった。

 高さにして二メートル以上、幅と奥行きがそれぞれ五十センチほど。

 不相応に思える大きさや容量もさることながら、かなり頑丈そうで、施錠もできるようになっている。

 中学生や高校生が学用品を保管するのには、少し大げさなのではないか。

 以前から智香子はそう思っていたのだが、今回、ようやく本来の使途について思い当たった。

 これは、探索者向けの装備を保管することも前提にしているのだ、と。

 探索者が全員、智香子自身のように〈フクロ〉のような収納用のスキルを持っているわけではないし、それに、探索部に所属をしている部員だけにこうしたロッカーを貸与すると今度は差別といわれかねない。

 だから、生徒全員にこんな、大げさにも思えるロッカーを貸し与えているのだ。

 探索者用の装備といえば、武器というか使いようによっては凶器にもなりかねない物も、当然、含んでいるわけで。

 そうした武器類というのは、迂闊に外部に持ち出せば銃刀法違反で捕まりかねないような代物がほとんどだった。

 その保管に関して、それなりに厳重になるは、決して不自然なことではない。

 鍵を壊して簡単に中身を取り出せるようなロッカーでは、困るのだ。

 もっとも。

 と、智香子は思う。

 これだけの備品を生徒の人数分、揃えることが可能なのも、松濤女子という学校の財務状況がそれなりに潤沢であるからだろうけど。

 生徒たちが迷宮に入って集めてきたアイテム類は、生徒たち自身で使用するか、売却をした上でその資金は生徒たち自身で運用している。

 学園側が利益を得ているとすれば、この学校自体の経営と、それに迷宮が入っているビルの不動産事業から、ということになる。

 あのビルは、松濤女子の学校法人が所有している。

 端的にいってしまえば、松濤女子という学校は、現状のままでも赤字になりようがない。

 経営的な体質として、そうなっているのだった。

 そうして資金に余裕があるからこそ、生徒たちへのサービスも行き届いているし、その自主性を尊重もできる。

 そういうことなのだろう。


 それはともかく。

 黎をはじめとするる〈フクロ〉のスキルを持たない探索部員たちは、そうしたロッカーを利用して探索用の装備を保管していた。

 家に持ち帰っても使いようがないし、それ以前に物騒だからだ。

 黎が貰ったばかりの探索者用の装備を自分のロッカーに収納したのを確認してから、智香子と黎は帰路についた。

 黎の家も京王線沿線にあり、同じ路線で帰れることになる、という。

「ああいうの貰っちゃったら、早く使いたくなるね」

「試しに振り回すだけなら、校内でも全然できるけど」

 校庭の一部分は、以前に智香子自身が確認をしたように、そのまま迷宮内部と同じようなスキルが使用できる。

 今日のアイテムや装備の受け渡しも、委員の子や智香子は〈鑑定〉を使っていたから、校庭でそうしたスキルが使用可能な場所を選んで行われていたのだろう。

「とうか、実戦。

 早く、実戦で試してみたい」

「わかっているって」

 智香子は、黎の言葉に頷いた。

「でも、順番だからなあ」

 智香子たちだけで迷宮に入ることができない以上、この次にいつ迷宮に入れるのかは、引率役の都合で決まる。

 これまでだって最低でも週に一回は迷宮に入っていたから、そう遠くない未来には迷宮に入ることができるはずだった。

「せいぜい、何日かの我慢だよ」

 智香子は黎に、そういった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る