第35話 最初のアイテム

 迷宮で採取できるドロップ・アイエムにはいくつかの種類がある。

 一番多いのは、硬貨や短剣など、それらしい形をしているが実は純度の高い非金属でしかないアイテム。

 たとえばこのうちの短剣など、一応剣の形はしている物の刃物はなまくらもいいところでほとんどなにも切れない、という。

 硬貨も、「丸い形をした金属板」といった方が実態に近く、表面に刻印とか浮き彫りなどは一切されていない。

 これらはほとんど地金としての価値しかない、という。

 それでも、この国や近隣のどこかの国で経済成長が活発になった時などは、そうしたありふれた金属資源も不足気味になり、相応に値上がりするのだというが。

 次に、武器や防具、装身具などの形でドロップするアイテム。

 こうした加工品の形でドロップするアイテム群は、その頻度こそ希ではあるものの、普通に探索を行っていればそれなりの頻度で出てくるという。

 そうした加工品の形でドロップするアイテムの中には、特殊な効果を持つ物も多く、探索者からは「実用品」として珍重、使用されている。

 探索者向けのオークションサイトなどに出品されるアイテムは、ほとんどはこの加工品タイプだった。

 最後に、通常の貴金属やこちらの地球上では発見されていない未知の物質や金属など。

 これらはインゴットや結晶体の形でドロップをすることが多い。

 ただし、その出現頻度は極めて希であり、一生この手のアイテムがドロップする場に居合わせることがない探索者も決して珍しくはない。

 かなり強い、それこそ探索者数十人が束になってようやく対抗できるようなエネミーを倒すした時や、その探索者より遙かに格上のエネミーをなにかの間違えでたまたま倒してしまった時などにドロップすることが多い、とされている。

 しかしその条件もはっきりと実証されたわけではなく、実証するのも命がけになるわけで、現在に至るまで推測の域を出ない物とされていた。


「保護服が二セットと、ヘルメットとブーツ」

 智香子の順番が来た時、迷宮活動管理委員会の子は智香子のサイズを確認した後、事務的な態度で手近に置いてある段ボールの中から目当ての荷物を取りだし、そのまま智香子の腕にどさどさと押しつける。

「一応、この装備で二十階層くらいまでは大丈夫なはずだけど、もしも破損したりサイズアウトした場合はそのまま捨てて新しいのをこちらに申請して」

 これらは迷宮内からドロップした物ではなく、人類の製造メーカーによる製品だった。

 つまり、いくらでも再生産が可能であり、お金さえ出せば入手することができる。

 それなりに頑丈にできる分、通常の衣服よりも高価ではあったが、ここ松濤では単なる消耗品としか見なされていない。

「それから……」

 その委員の子は智香子の胸あたりにじっと目を凝らした後、

「珍しい組み合わせ。

 それだけスキルが生えていて、攻撃用のスキルが一つもないなんて」

 と、いう。

「今の時点では、完全にサポートタイプに育っているわけだから……」

 とかいいながら、背後においてあった大きな段ボールの上にかがみ込み、その中身をなにやら物色しはじめた。

「こんなところ、かなあ?」

 とかいいながら、長さ五十センチほどの棒を智香子に渡す。

 より正確にいうのなら、すでに多くの荷物を抱えていた智香子の、その腕の中にある荷物の一番上に置く。

「……なんですか、これ?」

「見てわかれ。

 ってか、〈鑑定〉持ちなんだから自分で直接読み取りなさいって」

 そういわれたので、智香子はその棒に対して〈鑑定〉スキルを使ってみた。


〈電撃の杖〉

 射程距離 至近。

 効果 電撃。

    威力は使用者の能力に依存。


 うわあ、微妙だ。

 というのが、そのアイテムの情報を〈鑑定〉で読み取った智香子の率直な感想であった。

 流石は、タダで貰えるアイテム。


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