第261話 特殊な方法

 扶桑さんの会社は、そうした新人の探索者を育てるために外部から探索者を呼ぶことがある。

 この〈スローター〉氏の場合もこの例になるのだが、実際には声をかけても新人の育成に協力してくれる探索者はほとんどいないと、以前に聞いたことがあった。

 ほとんど探索者は、特に専業の探索者ほど自分の仕事で手一杯であり、扶桑さんの会社に協力するような余裕も義理もなく、さらにいえば扶桑さんの会社がその仕事のために用意できるギャラもかなり少額である、という。

 普通の、すでに独立して営業している探索者ならば、そうした仕事に協力するよりは自分で迷宮に入った方がよほど手っ取り早く稼ぐことができるわけで、つまりは採算が合わないから断られることが多い。

 と、そんな事情であるらしい。

 今回の〈スローター〉氏は、定期的に扶桑さんの会社に協力してくれるかなり例外的な探索者、ということになる。

 そうしたゲストに期待される仕事は、大まかにわけて二種類ある。

 ひとつはお馴染みのレベリング作業であり、もうひとつは、

「ある程度自分の方法論を確立できた探索者として、実際の方法を新人さんたちに見せる」

 という、見本というかモデルケースを提示する役割。

〈スローター〉氏はこのことについて、

「レベリングはともかく、もう一方はどんなもんかなあ」

 などと、いかにも自信がなさそうな口調でコメントしている。

「おれの方法は、なんというかアクが強すぎるから。

 見せること自体は問題ないんだけど、あまり参考にはならないんじゃないかなあ」

 他人事のような口調でもあた。

 頼まれた仕事については手を抜かずにこなす。

 しかし、実際の効果については、内心では疑問視している、ということらしかった。

「ええっと」

 智香子は首を傾げながら、そう訊ねた。

「それは、ソロでやることが多いからですか?」

「それもあるけど」

〈スローター〉氏は、淡々とした口調で答えた。

「それ以上に、おれのやり方って、かなり普通とは違うようだからね。

 あんまり参考にはできないんじゃないかと」

 この〈スローター〉氏がかなり特殊な方法論を持っている、ということは、智香子もこれまでに見聞した内容から察している。

 そもそも、わざわざソロで迷宮に入ろうとする、つまりリスクが多い方法をあえて採用する探索者はこれまでにいなかった。

 より正確にいえば、これまでもソロでやろうとした探索者はいたのかも知れないが、結果としてこの〈スローター〉氏ほどに長続きし、探索者として大成した例は記録に残っていない、というべきか。

 ソロに限らず、迷宮を探索する方法に関しては、これまでに無数の人々が考えつく限りの方法を試しているはずなのである。

 にもかかわらず、安定した成果をあげられず、その結果智香子たちの世代にまでメソッドとして定着していなかった方法論も、ソロに限らず無数に存在したはずだった。

 ただそうした失敗例の数々は、そのほとんどが実行者が迷宮内でロストするという結果に至ったため、現在ではまったく顧みられることがなくなっている。

 安定した成果があげられるような方法論は、たいていは情報として共有され探索者間の常識として定着しているはずであった。

 この〈スローター〉氏は、そうした淘汰圧を乗り越えて独自の方法論を確立しつつある、かなり希有な存在、ということになる。

 そして。

 と、智香子は思う。

 それほど独特な、〈スローター〉氏以外に使いこなせないような方法論が、一般的な初心者たちの参考になるとは、智香子自身も思えなかった。


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