第260話 集まってくる女性たち

 扶桑さんの会社は、これまでにも記述してきた通りに「探索者の育成」を目的にした企業になるわけだが、その中でもとりわけ「女性の探索者」に限定して育成事業を行っている。

 会社を立ち上げた扶桑さんから直に説明されたわけではないのだが、

「なぜ女性のみにターゲットを絞っているのか?」

 ということについて、智香子は、

「それだけ、女性が探索者になる道が絞られているからではないのか?」

 と、そう考える。

 ざっと迷宮のロビーを見回してみても、探索者の男女比率は大きく男性に傾いていた。

 男性探索者の人数は、軽く見積もっても女性探索者の二倍以上の人数になる。

 女性探索者だけでパーティを組んでいる例は、ほとんどなかった。

 現代ではこの男女比率もかなり改善されてきている、とか聞いたことがあったから、今よりも前の時代はさらに格差があったのだろう。

 と、智香子は予想する。

 身内や知り合いにたまたま信頼ができる探索者が存在して、そこのパーティに入れて貰う。

 など、恵まれた境遇にある一部の人たち以外にとって、つまりなんのコネもない女性がいきなり思い立って探索者をはじめるハードルは、実はかなり高い。

 すでに集団で毎年新人探索者を育てるための組織的活動をしている松濤女子などは、かなり例外的な存在であるともいえる。

 智香子たちのように、その内部にいるとそのことを失念しがちなのだが。

 たとえば、男性ならば、探索者としての資格を取った後、ふらりとどこかの迷宮ロビーに出向いて、目についたパーティの人に声をかけて一時的にその中に入れて貰う、ということが、比較的気軽にできる。

 しかし、これが女性ともなると、そうもいかない。

 一度迷宮の中に入ればそこは事実上治外法権であり、エネミー以外にも本来仲間であるべきパーティの構成員まで警戒の目を向け続ける必要があるからだ。

 制度的にはともかく、実際的な見地からいえば女性の探索者が独り立ちができるようになるまで、安心して探索者として活動できるような環境は、現状ではないといってもいい。

 扶桑さんの会社は、そうした環境を前提にして利用し、どうにかして女性探索者への門戸を広げよう、努力することによって利潤を得ようとしていた。

 智香子がこれまでに見てきた限り、扶桑さんの会社のユーザーは女性である以外、年齢や容姿、雰囲気などは見事にバラバラであり、統一感はまるでない。

 智香子自身とあまり変わらないような年格好の子から、ともすれば明らかに還暦を過ぎているような肩まで、平然と肩を並べて迷宮に入っていた。

 智香子としてはむしろ、職業としてみると明らかに引きされる傾向がある探索者になりたがる女性が、実際にはこれほど大勢いることに驚いている。

 いや、仕事として探索者を選んだ、というよりも。

 と、智香子は思い直した。

 短期間で現金を得ることも可能な探索者になる以外、選択肢が残されていなかった人がそれだけ大勢存在すると、そう見なすべきなのかな。

 ただ、その扶桑さんの会社をあてにして集まって来た女性たちの表情は、なぜか一様に明るい気がした。

 その明るさがどこから来るものなのか、社会経験がなく年若い智香子にはまだうまく想像ができない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る