第215話 脱落しない理由

 智香子たち四人は三学期中に、さらに二つの死蔵アイテムの活用法を発見した。

 とはいえ、その二つのアイテムは例の〈ブラックコックジャック〉よりもレアなアイテムであったし、使用法が判明したからといって即座に大きな影響を持つわけではなかったのだが。

 委員会が死蔵しているアイテムといってもレア度や性質はかなりまちまちであり、活用方法が判明したといってもすぐに利用されるわけでもないのだった。

 一例をあげると、それまで派手な色彩の盾としか認識されなかった〈玉虫色の盾〉が実は使用法によっては特定のエネミーを無条件に発情させる効果があるなどとは誰も予想していなかったし、その結論にたどり着いた智香子自身が実際に出た実験に呆れもしたのだが、そんなレアなアイテムのピンポイントな効果はほとんど誰の役にも立たなかった。

「むしろ、どうやってこんな特殊な効果を見つけるのことができたの?」

 そのレポートを提出し、中身を確認した千景先輩は、なんとも微妙な表情でそういった。

「ええと」

 智香子は、しばらく返答に詰まる。

「いろいろな偶然が重なって」

 そうとしか、説明のしようがない。

 そんな、状況だった。

 ただ、智香子たち四人以外の誰かが同じことを発見できたかというと、これはもうかなり怪しい。

 偶然の発見があったことも事実だったが、それに加えて四人が意見を出し合って検討をすることを日常的にしたいたからこそ、その偶然も活かせたわけであり。

 そういうことも含めて、「才能」と呼ぶのならば、智香子たちは四人全員でかなり特殊な才能を持っている、ということになる。

 いずれにせよ、三学期が終わるまでに合わせて四つの死蔵アイテムについて活用法を見いだした智香子たちは、ますます探索部の中でも、ごく限られた人たちから注目される存在になった。

 ほとんどの探索部員たちは、智香子たちがそういう実績を積んでいるということ事態は把握していたものの、せいぜい、

「今年の一年生には変わったやつらがいるみたいだな」

 程度の認識しか持っていない。

 探索部員の大半が他の部との兼部組であったし、彼女たちは自分自身の活動で忙しく、そこまで親しくない人間に注意を払っている余裕がなかったのである。


 実際、智香子たちのように、

「探索部にのみ所属している」

 という生徒は少数派だった。

 そうした非兼部組の半数近くが委員会に所属している。

 そういえば、どれほどの少数派であるか想像できるだろうか。

 探索者として迷宮に入る行為は、一般的にあまり好まれていない。

 キツい、汚い、危険と典型的な3K環境だったし、さらにいえば、日常的に流血沙汰を繰り返してもいるわけであり、お世辞にも智香子たちのような女子中高校生に人気がある行為とはいえなかった。

 思い返してみても、去年の春に智香子と同じ時期に探索部に入った新入生のうち、かなりの人数が早い段階で脱落をしている。

 想像していた以上に、実際の探索作業は過酷で単調だった、ということもあるのだろう。

 それに、部活として迷宮に入いる以上、金銭的な見返りがあるわけでもなく、なんらかのモチベーションの元がないと早々に脱落することになる。

 兼部組に、比較的こうした脱落者が少ないのは、彼女らの仲間意識と、それに回収したアイテムを換金して部費に当てることができるという目的意識があるからなのではないか、と、智香子は想像をする。

 智香子の場合のように仲間に恵まれるか、それともそうした目的を持つかしないと、部活としての探索者活動は、なかなか続けることができないのではないか。


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