第214話 独自の地位
智香子たちはそれからも何本の短剣をブラックジャックで折り、いくつかの盾を割り、その様子を異なる角度からスマホで撮影した。
後で、委員会の先輩方に見せるためだ。
そのうち、目の前で実演することになるのだろうが、その前の段階で、このこれまで顧みられることがなかった武器がここまでの可能性を持っていたことを、しっかりと記録して提示したかった。
それから何日かがかりで撮影した動画データもまじえたレポートを作成し、四人全員で念入りに見直してから、ようやく委員会に提出をする。
「まさかこんなに早く結果を出すなんて」
そのレポートに目を通した千景先輩は、呆れたような口調でそういった。
「まだ例の円盤を、ようやく使いはじめたばかりよ?
次の結果が出るのは、来年度になってからだと思っていたのに」
思っていた、というのは、おそらくは千景先輩個人というよりも、委員会の先輩方の総意なんだろうな。
智香子は、そんな風に想像をする。
「いや、わたしらだって、こんな結果になるなんて予想していませんでしたから」
佐治さんは、笑いながらそういった。
「今回の場合は、アイテムがアイテムだから、これまで誰も真剣に使いこなそうとしてなかっただけなのでは?」
「そうなんでしょうね」
千景先輩は、佐治さんの意見に頷く。
「迷宮でドロップするアイテムって、時には冗談みたいな外見をしていることがあるから」
そういえば、智香子が使っている例の杖も、外見でいえば女児用のおもちゃめいていた。
先輩方が予想していたよりもかなり早いとはいえ、智香子たち四人は例の円盤に続いて死蔵されていたアイテムの有効な使用方法を示したことは事実だった。
そしてその結果が委員会の間に知れ渡ると、
「その手のアイテムに関しては、もうこの四人に任せておけばいいんじゃね?」
という空気が、急速に広まる。
例の円盤だけならば、偶然ということも十分にあり得た。
しかしこうも短い間に、立て続けに二つも死蔵アイテムの使用方法を解明したとなると、これはもう偶然であるとは思えない。
智香子たち四人は、どうもそういう才能があるらしい。
という認識が、公然のものになる。
着眼点なのか思考法なのか知らないが、仮に本当にそうした才能があるのだとすれば、随分とニッチな才能だなあ。
などと、智香子は思うのだが。
ただ、こうした発見により、智香子たちがわずかながらも松濤女子探索部全体の戦力を増強したことは事実なのだった。
武器の使用法というのは、個人の才覚や資質に依存しない分、固定的な増強であるともいえる。
委員会に参加してからまだ間もない智香子たちがこうした発見を立て続けに行っている、という事実は、どうみてもかなり異例なことといっていい。
まだ年が明けてから日が浅いこの時期、智香子たちはすでに委員会内部で独特の地位を占めるようになっていた。
とはいえ、そのことが智香子たち四人になんらかのメリットを保証するわけではなかったのだが。
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