第134話 お試しプレイの誘い
これまでに説明してきた経緯により、扶桑トレーニングサービス社と松濤女子との協働事業が正式にスタートすることになった。
とはいえ、この時点では「することが決定した」というだけであり、智香子たち探索部の部員レベルではまだ変化は見られなかった。
なぜかといえば。
「それは、パーティのマッチングのシステムが構築されていないからでしょ」
その日、なぜか昼休みに智香子たちの教室まで顔を出してきた千景先輩は、智香子の疑問にそう答えた。
「うちの部員同士でパーティを組むだけなら、SNSとかのシステムを利用してちゃっちゃと組み合わせを決めることもできるわけだけど。
この場合、外部の企業と組んでということで、なおかつ、希望者間に機会の格差が出ないように、ということになると、少しシステムを改修しないと」
「なるほど」
智香子はその返答に納得をした。
「人数が多いですからね」
この千景先輩は、「迷宮活動管理委員会」というところに所属している。
この「管理委員会」とは、平たくいうと、松濤女子探索部員たちに様々な便宜を図るための委員会だった。
「基本、煩雑な部分はプログラム任せにするのが効率的な方法になるわけだけど、なにしろ前例がないシステムになるから準備が整うまでに時間がかかるみたい」
千景先輩は、そうつけ加える。
「発注したばかりだから」
「発注したって、なにを?」
智香子が、首を傾げる。
「なにをって、スクリプト?
プログラム?」
千景先輩は昂然と胸を張って答えた。
「正式にはなんていうのかしらないけど、そのSNSにくっつける追加の仕組みを。
簡単な物ならば校内の子に頼むんだけど、信頼性とかのことを考えるとやはり実績のあるプロにお願いした方がいいのよね」
「はあ、なるほど」
実はよくわかっていないのだが、なんとなく智香子は頷いた。
「で、その外注した物ができるまで、実際に扶桑さんのところの提携事業ははじまらないわけですか」
「正式にはね」
千景先輩は、そういって頷いた。
「ただ、そうして正式にスタートする前に、テストケースとして何組か、扶桑さんのところと合同でパーティを組んで貰うことになるとは思うけど」
「事前の様子見、ですか?」
「扱い人数がさほど多くなければ、手動で人間が判断して人選をすればいいだけだからね」
智香子が訊ね返すと、千景先輩は即座に説明してくれる。
「ということで、そのお試しプレイの第一弾、あんたたち四人だから」
「ああ、はい」
と、頷きかけた智香子は、慌てて顔をあげ、大きな声を出す。
「ええっと!
第一弾が先輩方を差し置いて、わたしたちなんですか?」
「いやだって、あなたたちがきっかけを作ったようなもんなんだから、当然でしょう」
千景先輩が、そういう。
「システムが整い次第、他の子たちだって普通に扶桑さんのところに同行するようになるだから。
あまり深く考えずに、とっとと行ってきなさい」
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