第135話 テストプレイのはじまり

 実際に智香子たちテストケースとやらを行ったのは、教室で千景先輩から通達をされてから一週間ほど置いた平日の放課後のことになった。

 今回のようなテストケースにおいて、智香子たち生徒だけで向かわせるわけもなく、引率者として顧問の勝呂先生も同行している。

 智香子たち四人と勝呂先生、それに、委員会の方からも千景先輩がついてきた。

 この六名で、扶桑さんのパーティといっしょに迷宮に入ることになる。

 校舎から〈松濤迷宮〉へと向かう通路に集合して、六人が揃ったところで迷宮ロビーへと向かう。

 この六人のうち、生徒たちのほとんどはクラスと学年が違っているわけだが、今回の場合、時間と場所を間違いようがないので問題はなかった。

「妙なことになったもんだなあ」

 迷宮へと向かっている途中で、佐治さんがそんな風にぼやいた。

「まあ、わたしたあちがいいだしっぺではあるんだが」

「それをいうのなら、一番最初に提案してきたのは葵姉さんでしょう」

 黎が、そういう。

「その本人は、ここにはいないけど」

「だってあの人は、部外者だし」

 智香子は、黎に向かってそういう。

「すでにうちを卒業しているわけで。

 扶桑さんを紹介してくれたことだけでも、感謝をしなけりゃ」

「こうしてつき合わされるのは面倒だけど、でも、最終的には迷宮に入る機会が増えるわけだし」

 香椎さんは、そういう。

「はいはい」

 勝呂先生がいった。

「あんたたち、無駄口はそれくらいに」

 校内から迷宮のロビーまで、いくらも歩かないうちに到着する。

 同じ敷地内にあるのだから当然なのだが。

 校内ならばともかく、他にも無関係の人たちが大勢行き来をしている迷宮ロビー内で大きな声で騒ぐのは、たしかにみっともないかな。

 と、智香子は思う。

「ええっと」

 ロビーの中央で足を止め、勝呂先生は周囲を見渡す。

「こちらです」

 少し離れたとこりにいた扶桑さんが片手をあげ、こちらに歩いてくる。

 その背後に、三十名前後の女性たちが控えていた。

 全員、探索者用の保護服を着用していたので、あれが扶桑さんのところのパーティと見て間違いはないだろう。

 間近に向かい合った勝呂先生と扶桑さんとは、くどいくらいにお辞儀を繰り返してからようやく本題に入った。

 名刺交換などをしていないところを見ると、すでに面識はあるらしい。

 探索部顧問という勝呂先生の立場からいっても、事前の打ち合わせくらいは済ませているか。

 と、智香子も納得をする。

「それで、今回は」

 勝呂先生との挨拶が終わった後、扶桑さんは智香子たちに向かって、そう説明をはじめた。

「皆さんにはうちのパーティの周囲を警戒して貰う予定でいます。

 つまり、目的地に着くまでは」

「つまり、どこか目的とする場所があるわけですね?」

 勝呂先生が確認をする。

「今回のパーティに参加する人たちは、ほとんどが初心者ですので」

 扶桑さんは即答をした。

「まずはレベリングをすることになっています。

 つまり、バッタの間に行くわけですね」

 智香子たちにとってもお馴染みの場所だった。

 基本的に、累積効果が多ければ多いほど、その探索者は安定をするといわれている。

 その累積効果により、筋力や反射神経、それに治癒力までが向上するということが実証されているのだから、当然なのだが。

 累積効果とは、つまりは「生物としての諸元能力をまんべんなく向上させる」効果であると、いわれている。

 迷宮の内部と近くでしか効果を発揮しないのが難点といえたが、この累積効果があるのとないのとでは、その探索者の安全性はまるで違っていた。

 智香子たち松濤女子が、初心者である一年生にまずレベリングによって累積効果を得るようにしていたことも、安全を第一に考える方針からすれば当然の帰結であるともいえた。

 扶桑さんの会社の目的は、初心者を探索者として独り立ちできるようになるまで育てる、ということなので、自然と松濤女子と同じような方法になるのだろうな、と、智香子はそう想像をする。



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